悪夢みたいな現実の中、ガールズムービーを作る理由。石原海の長編デビュー映画『ガーデンアパート』

悪夢みたいな現実の中、ガールズムービーを作る理由。石原海の長編デビュー映画『ガーデンアパート』

若手映像作家、クリエーターとして、GINZAの誌面にも度々登場してきた石原海。ロッテルダム国際映画祭 2019 にも正式出品された、彼女の長編映画デビュー作『ガーデンアパート』が日本での劇場公開を迎えた。ティーンエイジャーの頃から彼女を知る、ライター、翻訳家の野中モモがインタビュー。


―海ちゃんは高校生の頃から私が主宰しているZINEのイベントに遊びに来てくれたりしてて、だいぶ前から知っているので、今回は映画監督としてインタビューできることになって感慨深いです。これまで映像を中心に、アート・インスタレーションもやるし、ZINEも作るし、いろいろなメディアで作品を発表してきたけれど、最初にそういう創作活動を始めたのは、いつ、どんな風に?

小学生ぐらいの時に小説を書いてました。

 

―まずは文章から。その頃はどんなものを読んでいましたか?

小学生の時は、これめちゃめちゃ恥ずかしいんですけど、太宰治が好きで。『人間失格』を読んで、今思えば何も知らないのに「あ、自分の話だ」とか思って(笑)。暗い詩のような小説のようなものをずっと書いてた。

 

―暗かったんだ。

暗いです。今もめちゃめちゃ暗いです。そう、それが最初。その後に、音楽もすごい好きだし、写真も好きだし、全部できるのがやりたいなって思って映画を作り始めるんですけど。きっかけとしては、15歳くらいの時にゴダールの『愛の世紀』を見て。あれってビデオアートみたいな感じで、ドラマとは言えないじゃないですか。中学生の頃はまだ映画とちゃんとした意味で出会えていなくて、映画で「ヤバい」ってなるのって『時計じかけのオレンジ』止まりだったんですよね。でも、『愛の世紀』で映像でやれることの広さを知って、自分でもできそうだなって思って。私が好きな映画って、見て楽しめる映画と、見ることによって触発されて作りたくなる映画があって、ゴダールの『愛の世紀』は完全に後者。それで家にあった安いデジカメの動画機能を使って撮り始めたのが、一番最初の映像での制作ですね。

 

 

―それからすぐ「イメージフォーラム・フェスティバル2011」ヤングパースペクティブ部門に出品して、見事入選していますよね。そういった芸術的で実験的な表現の世界にすっと行き着く人とそうじゃない人がいるじゃないですか。そっちに行けたのは?

その時に付き合っていた人が『愛の世紀』がシネマヴェーラでやっているから行こうよって。その人の影響は大きいですかね。小学生の時から、太宰、三島、谷崎が好きで、『ガロ』も好きな超サブカルで、でもまだ世界の構造とかわかっていなかったんです。でもその人と出会ったことで、自分が今までいいと思ってきて、周りと何か違うって感じていたズレみたいな、そういうピースが全部はまっていって世界が一気に広がったのが15歳から17歳ぐらい。身動きが取れないっていうか、靴持ってるんだけど靴の履き方わかんないみたいな状況だったのが、「あれ? 歩ける!」みたいな。そこから走れることに気がつくっていう(笑)。ピースがはまった後って最強じゃないですか。そこから自分がなにが好きで、なにを大切に思っているかちゃんとわかるっていう、最強モードのまま今25歳ですよ。

 

―『ガーデンアパート』に関しては、ファスビンダー(※1)とカサヴェテス(※2)の影響がよく指摘されていますよね。どちらも世間で「こうあるべき」とされる姿から外れている中年女性をすごく魅力的に描く監督です。

カサヴェテスもファスビンダーも、彼らのパーソナルな部分がそのまま作品に反映されているあたりに、すごい影響を受けていて。たとえばカサヴェテスだったら奥さんのジーナ・ローランズと一緒に映画を作っていたりだとか。ファスビンダーも恋人や友達、身の回りの人たちと一緒に。大規模な予算で何本も撮っているわけじゃないけど、お金がない時も自分ができる範囲で映画を作っていく。その中で自分の人生と映画が交差している。でも、だからこそ、めちゃくちゃメロドラマ調というか、演技も話もオーバーじゃないですか。そういう過剰であるところがすごく好きで。でも最近は、過剰なものってなくなっていく傾向にあるのかなって感じています。

※1 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(1942-1982)ドイツの映画監督、脚本家、俳優。37年の生涯に40本以上の映画を発表したニュー・ジャーマン・シネマの旗手。代表作に『13回の新月のある年に』『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』など。

※2 ジョン・カサヴェテス(1929-1989)アメリカの映画監督、脚本家、俳優。インディペンデント映画の父と称される。代表作に妻である女優ジーナ・ローランズをフィーチャーした『グロリア』『こわれゆく女』など。

 

 

―『ピンク・フラミンゴ』で有名なジョン・ウォーターズ監督も、近年は「トランプ政権の時代に『趣味のいい悪趣味』なんてものはもう成り立たない」と言っていますよね。あからさまに差別的な人たちが権力を握っていたり、現実が悪夢みたいで、作品でショックを与えるのが難しい時代。政治や文化のメインストリームがお上品にきちんとしていたら、過剰だったり悪趣味だったりする芸術表現が人の心を揺さぶる力を持てるんだけど、いまは本来ちゃんとしてなきゃいけないところまでもう全部デタラメな感じで。ど真面目に平和と正義の大切さを訴えるほうが逆にラディカルになってる感があります。

世の中が変な方向にどんどん進んでいるって思っていて。政治の中心がおかしくなっていて、政治的な問題について黙っていると間違っていることに加担していることになっちゃう時代じゃないですか。声あげるの怖いけど、声あげないと、黙っていたら何も変わらないっていうか。時代時代に合わせた世界との向き合い方でものを作っていかないといけないなと思っていて。だからできる範囲で、少しでも傷つく人がいないとか、弱い人たちが弱いまんま生きられるような社会にしたい。そのためには声をあげたり、そんな声を含んだ作品を作らないといけないなって気持ちはすごくあります。

 

―かつてはアーティストのありかたのひとつとして、「政治的な主義主張とか組織的な社会運動には絶対に近寄らない」という態度が社会にインパクトを与えていたけれど、もはやそんなことは言ってられないような世の中になってしまっている。『ガーデンアパート』が撮影されたのは3年前だけど、そういう状況下でがんばっている同世代の仲間がたくさん出ていて、そこも見どころですよね。

『ガーデンアパート』を撮影することになった時に、モデルとか役者じゃなくて、本当に生きかたが面白い人たちを出したくて。あみちゃん、ALMAちゃんせいじくんの3人は、撮影の直前にたまたまRUBY ROOM(渋谷にあるクラブ)に遊びに行った時に会って、絶対この3人に出て欲しいと思いました。

 

―映画のロケにも使われている歌舞伎町のクラブで「Pink Queendom」というイベントをやっていた面々ですよね。今は浅草のヴィーガンカレーの店「PQ’s」と、新しいクィアスペース「PURX」に携わっていて、これからの活躍も楽しみ。

もともとせいじくんとは19歳の時にドイツで知り合ってたんです。ドクメンタ(※3)が観たくて、航空券は買えたんだけど宿が無いままドイツに行ったんですよ。その時、大学の友達に「宿ある人いるよ、紹介してあげる!」って紹介してもらったのがせいじくんだったんです。そのあとしばらく接点なくなっちゃってたんだけど、偶然再会して出演してもらえました。

※3 ドイツのカッセルで5年に1度開催される現代美術の国際展。

 

―東京を拠点に活動するフェミニスト・パンク・バンド「Ms.Machine」の彩衣さんも出演してますね。

彩衣ちゃんは高校生の時から友達で。あともうひとり、石原もも子ちゃんていう10代の時からほぼ毎週会っているくらいの超大親友が出ています。彼女自身もアーティストで、インスタレーションとかやっていて。このあいだ仕事やめて、これから自分で色々作っていきたいって。そういう周りの愛する人たちの力を借りて作った映画なんです。ずっとそういう感じでみんなと一緒に成長していきたいっていうか、そういう映画の撮りかたをファスビンダーとかカサヴェテス的な感じでできたらいいなと。

 

―昨年発表したSF短編『忘却の先駆者』は「Making-Love club」の中川えりなさんが主演でしたね。彼女も「政治も愛もセックスも、同じテーブルの上で話せる空間」を作ることを目指してイベントや自主出版を続けています。

社会や政治に関してがんばっている同世代の友達が周りにいて、私はそれをめちゃくちゃ尊敬していて。本当にすごい最高なことだと思っていて。最初、自分はそういうことできないと思っていたんですね。私は人前に立つべきじゃないっていうか、黙んなきゃって思ってた。でも、モモさんが翻訳した『バッド・フェミニスト』を読んで、そうじゃないんだと。

 

―読んでくれたんだ。ありがとう。

ロクサーヌ・ゲイの「私はピンクが好きだし、男が好きだし、ビッチとか言ってるHIP HOPが好きだし、でもそれでも私は自分のことをフェミニストだって言う」ってその姿勢が……。それでいいんだ、っていうか、全然ダメなんだけど、自分が傷つけてきてしまった人のこととかは常に頭の中にあって、2度と同じことを繰り返さないようにするっていうのがまずあるけど、だからといって何も話さないというのは違くて。これまで間違ったこともしてきたけど、私はフェミニストだし、社会とか政治について考えていくし、怖いけど、わかっていないこともあるけど、すべてのことをわかるなんて不可能だから、わかんないなりに人間として言葉にしていくっていうことが重要なんだ、と『バッド・フェミニスト』を読んですごい思ったんです。あれはフェミニズムの話だけど、それだけじゃなくて生きることの話だと私は思っていて。ここ数年で読んだ本の中で一番大切な本です。

 

 

―それは翻訳者としてすごく光栄です。今はロンドンの大学院で学びつつ制作を続けているんですよね?

『Janitor of Lunacy (狂気の管理人)』っていう作品がBBCテレビとBFI(British Film Institute)で上映されました。それは超気合いを入れて作った。それを3月に終えてから、BBC制作の大きな規模とは全然違う、小さくできる作品を作っていて。『Acid Pigeon』ていうエッセイ映画で、初めて16mmで撮ったんですけど。それはもう本当、小さく小さく、どこで上映されるかもわからないまま作っていて、撮影が終わって今ポスプロ中(※4)。ドラマのシーンもあって、私が話すエッセイ/ポエトリー的な部分と、ドラマのパートが鳩というキーワードで繋がる、みたいな作品を作っています。

※4 ポスト・プロダクション中。編集など撮影後の作業の総称。

 

―パージン(※5)的な?

パージンの映画版みたいな感じでやっていて。実際に鳩を使ったインスタレーションと組み合わせたりしてやりたいな、とか考えてます。

※5 パーソナル・ジン(Personal Zine)。ZINE(自主制作の出版物)の中でも特に個人的な内容のものを指す。

 

―『ガーデンアパート』に続く長編の制作の予定は?

並行して2作目の長編映画をずっと考えていて。それは日本が舞台で、北海道と銀座で撮りたいなと。『ガーデンアパート』は数十万の低予算で作った映画なんですけど、この2作目はイギリスと日本のプロダクションで、ちゃんとしたバジェットで撮りたくて。イギリスのプロダクションはほぼほぼ決まっていて、日本はまだ決まっていないんですけど……1年なのか2年なのか、どれくらいかかるかわからないんですけど、でも大切にして、これが最高傑作だって信じて、それに向かってやっています。タイトルだけはもう決まっていて、『美しき自暴自棄』っていうんですけど。水商売してる若い女の子と、アルツハイマーのおじいさんの話。早くそれを撮りたいです。

 

Photo: Mayumi Hosokura

ガーデンアパート

ロッテルダム国際映画祭「輝く未来」部門に選出された、
愛と狂気のガールズムービー

thegardenapartment-movie.tumblr.com

 

◇ストーリー

ひかりは、同棲中の太郎との子供を妊娠したばかり。二人とも大学を卒業後、就職をせず にバイトで暮らしていたが、金銭的な問題が浮上する。太郎はひかりに内緒で、叔母の京 子に頼る。しかし叔母である京子は、若くして旦那を亡くして以来、アル中気味で奇妙な言動ばかり。ついでになぜか家に何人も若い子を住まわせている。ひかりは太郎 に内緒で、叔母の家をひとりで訪れる。これは、崩壊しそうな愛に関する一晩のメロドラマである。

 

◇作品情報

『ガーデンアパート』
英題 : The Garden Apartment
2018 年 / 日本 / 77 分 / カラー / 16:9 / ステレオ

監督・脚本:石原海
共同脚本・プロデューサー:金子遊 アソシエイト・プロデューサー:中村安次郎 出演 : 篠宮由佳利 / 竹下かおり / 鈴村悠 / 石田清志郎 / 石原もも子 / 稲葉あみ / 彩戸惠理香 /Sac/Alma/ 森雅裕 / 奥田悠介 / 塚野達大
音楽 : Cemetery / 戸張大輔 / Scraps
撮影 : チャーリー・ヒルハウス 録音:川上拓也 美術:三野綾子 スチール写真:ヴァンサン・ギルバート / 黒田零 ヘアメイク:藤原玲子 スタイリスト:塚野達大 スタッフ:奥田悠介 / 太田明日香 配給・宣伝:アルミード / Filmground

石原海 UMMMI.

アーティスト/映像作家。愛、ジェンダー、個人史と社会を主なテーマに、フィクションとノンフィクションを混ぜて作品制作をしている。初長編映画『ガーデンアパート』、東京藝大学の卒業制作『忘却の先駆者』がロッテルダム国際映画祭に選出(2019)。また、英BBCテレビ放映作品『狂気の管理人』(2019)を監督。現代芸術振興財団CAF賞 岩渕貞哉(美術手帖編集長)賞受賞 (2016)。イメージフォーラムフェスティバルヤングパースペクティブ入選(2016)、ポンピドゥーセンター公式映像フェスティバルオールピスト東京入選(2014)など。
http://www.ummmi.net
Twitter @_____81
Instagram @_____81

野中モモ MOMO NONAKA

ライター、翻訳家。東京生まれ。単著に『デヴィッド・ボウイ : 変幻するカルト・スター』 (ちくま新書)、共著にばるぼらとの『日本のZINEについて知ってることすべて : 同人誌,ミニコミ,リトルプレス-自主制作出版史1960~2010年代 』(誠文堂新光社)、訳書にアリスン・ピープマイヤー『ガール・ジン : 「フェミニズムする」少女たちの参加型メディア 』( 太田出版)、キム・ゴードン『GIRL IN A BAND : キム・ゴードン自伝』(DU BOOKS)、ロクサーヌ・ゲイ『バッド・フェミニスト』(亜紀書房)他。また、自主制作出版物オンラインショップ「Lilmag」の店主を務め、イベント「TOKYO ZINESTER GATHERING」を共催。
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