安定がほしいだけで警察官になった川合(永野芽郁)と、刑事課のエースからわけあって交番勤務となった藤(戸田恵梨香)。ペアを組んだ二人の奮闘を描く『ハコヅメ』(日本テレビ、毎週水曜22時)2話。ドラマを愛するライター、釣木文恵が振り返ってみました。役者陣が豪華だけど、シリアスとコメディのバランスを絶妙に取る脚本(根本ノンジ)も巧い。
戸田恵梨香×永野芽郁『ハコヅメ』2 話「犯罪に関係あるものは置いて帰りたくない」川合のシンプルさが人を救う
働き方改革とはかけ離れた警察という職業
働き方改革が叫ばれるようになってしばらく経つ。幸か不幸かコロナもあいまって残業が減ったり、テレワークが定着したりと、会社勤めをしている人たちの勤務状況は以前に比べると少しずつ改善しているのではないだろうか。
例にもれず警察も「警察庁におけるワークライフバランス等の推進のための取組計画」を掲げて休暇の取得推進やらテレワークの実施やらに取り組んでいる。けれどやはり事件が起きたらすぐさま駆けつけなければならず、危険と常に隣り合わせの警察官という職業に一般企業同様の働き方改革を期待するのはなかなか難しそうだ。
というわけで川合(永野芽郁)だ。勤務を終えて帰ろうとすると出動命令が下り、非番の日にも応援要請が来る。おそらくよくいる、長時間労働に翻弄される警察官の一人。しかし1話を終えた時点で彼女がこれまでの刑事ドラマに登場するような勇敢な警察官とはかけ離れたキャラクターであることはわかった。そもそも警察官になろうという志がなく、1話終盤で藤(戸田恵梨香)に諭されるまでやめようとしていたくらいだ。2話でも、不規則な仕事に慣れず眠気と戦うのも、夜の学校が怖くて歌いながらパトロールする姿も、これまで警察を描いたドラマでは観ることのできなかったシーンだ。彼女が一般の私たちと変わらない感覚の持ち主であることが伝わってくる。
川合のまっすぐさが伝えるもの
川合は藤に出会い、警察という仕事への向き合い方が変わった。眠くなることはあるけど、やる気はある。パトカーを時間をかけて念入りに磨いては「ビビッて走り回ってたとき、パトカー見て『助かった』ってほっとしちゃって。街で同じようにパトカー見かけて安心してる人もいるんじゃないかって思ったんです。だから大切にしようって」と言う。弱冠20歳の新任だけあって、考え方がシンプルでまっすぐだ。
公園でタバコを吸う少年・優太(南出凌嘉)を迎えに来る母親(遊井亮子)が息子に無関心のように見え、やはりシンプルに、というか短絡的に「だからあんなにグレちゃうんですよ」とつぶやく川合。しかしその後優太の祖父が亡くなって検視に行った際、彼女は自分の浅はかな判断を反省することになる。藤がその遺体の状態から優太の母の献身的な介護を見抜き、「頭が下がります」と伝えたからだ。
その人の一面だけを見て短絡的に判断してしまう経験は、歳を重ねてもついやってしまいがちなこと。素直に間違いを認められる分、川合のほうがえらいかもしれない。
同棲中の彼氏にもらったイヤリングを失くしたという女性・松原(山口まゆ)の遺失届1枚書くのに親身になって1時間かかり、彼女とたまたま会っただけで夜遅くまでイヤリング探しを手伝う川合。しかしそのイヤリングが盗品であることが判明し、彼女の同棲相手が指名手配中の窃盗犯・菊池(井上尚)だとわかり、家宅捜索を行うことになる。彼女の気持ちを思って家宅捜索ができない川合に藤は、
「それが普通だから」
「慣れちゃった私達のほうがおかしいよ」
と伝え、無理にやらせない。しかしあらかた証拠品が出てから現場に戻った川合は、細かくしつこく捜索を続ける。止める先輩たちに川合は言う。
「彼が出ていった後も、彼女まだ一人で住まなきゃならないから。残された松原さんに、悲しい思いしてほしくないんです。だから犯罪に関係あるものは一つだって置いて帰りたくないんです」
これはまさに、1話で藤が言った「警察官の顔をしてない川合だからこそできること」だ。出会った人に情が湧いてしまう、その相手の気持ちを慮る。彼女のシンプルさが人を救った。
原作の絶妙なバランス感を残す脚本
ここまでまとめてみると、出会った事件に真摯に取り組むシリアスなドラマに思えるかもしれない。けれど前半には恋愛経験のない川合がラブホテル張り込みで大騒ぎする展開もあったりして、ベースはやっぱりコメディなのだ。原作漫画では複数回にわたるエピソードを巧みに組み合わせつつ、原作の「リアルな警察官の生態に笑っているうちに、ラストでちょっとグッとくる」という絶妙なバランス感を1話で出してくる。脚本の根本ノンジの巧さが光る。
伊賀崎(ムロツヨシ)が「川合を見ているとあの子を思い出す」と思わせぶりに言った「あの子」とは誰なのか。藤が交番に異動してきた本当の理由もまだ見えない。謎を残しつつも、きっと3話も『ハコヅメ』は軽やかに今まで観たことのない警察の生態を観せてくれることだろう。
脚本: 根本ノンジ
演出: 南雲聖一、丸谷俊平、伊藤彰記
出演: 戸田恵梨香、永野芽郁、三浦翔平、山田裕貴、西野七瀬 他主題歌: milet「Ordinary days」
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Illustrator たけだあや
イラストレーター、ときどき粘土作家。趣味の多い京都府出身。
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