こんにちは。はじめまして、ライターのシャオパイ・ペギニーズです。普段は美術の世界に足を突っ込んでおります。最近は、例えるならば渋谷のスクランブル交差点にある電光掲示板くらいの大きな油画を制作中。恋多きイラストレーターの友人Kに勧められ、海外セレブ恋愛系ドラマ「ゴシップガール」を制作中のBGMに・・・するつもりが見事にハマってしまい、若干2日目にしてシーズン4まで到達する勢い。筆は進まず。これって掃除中に懐かしい手紙とか出てきて読みふけっちゃう感じと一緒ですかね。違うかなあ。
さて、部屋で気軽にyoutubeもいいけれど、映画はやっぱり映画館で観たい。iPhoneの電源を切って誰にも邪魔されないのはもちろん、知らない人と隣同士、みんなで同じ方向を向いているあの状況が好き。それぞれが一人なのに一人じゃないような、不思議な安心感でいっぱいになる空間。適度な緊張感も相まって、“観る”ことへの気分が高まる。
今日紹介したい場所は新文芸坐(しんぶんげいざ)。池袋駅東口から歩いて3分程度。映画好きが集うホットスポット「名画座」ですが、名画と聞いてピカソやダリを連想する方も多いかもしれません。でもこの場合の意味は“すぐれた映画”のこと。新作を扱うシネコンとは違い、複数の旧作が上映されている隠れ家的シアター。基本的には全席自由席。入れ替えもなく、一枚のチケットでプログラムを2、3本続けて鑑賞できる。
フォントと「文」の二角目が愛らしい。
マルハンと新文芸坐の看板を目印にビル3階へ。さっそく広がるL字型のロビー。天井が高く、照明も控えめ、すれ違う人との距離感も丁度良い。上映前の混雑具合をもろともしない落ち着いた空間(デザイン・飯島直樹氏)は、池袋駅の喧騒からはとても想像できない。向かって左の壁には、適量の光源に照らされた映画のポスターがずらり。
名物の「オールナイト上映」は、その名のとおり当日の夜から翌日の朝までいくつかの映画を観続けるイベント。ここでは東京で唯一、毎週(!)土曜日にオールナイト上映が行われている。そんなスタミナと映画愛に溢れる老舗名画座が、新文芸坐なんです。
座席は今年7月にリニューアル済。/© 新文芸坐
潜入したのは先月7日(土)に開催された『青春の風景〜Boys Side〜 エロ!屁理屈!能天気!バンド! 男子ポテンシャル底上げナイト』。『超能力学園Z(1982)」、『スラッカー(1991)』、『エブリバディ・ウォンツ・サム‼(2016)』、『シング・ストリート(2015)』、計4本の青春物語を上映。80’s〜現代を生きる見目麗しき男の子に、彼らを取り巻く女の子、音楽、ファッション、ユースカルチャー。内容は一夜にしてかなりボリューミー。これが毎週末味わえる劇場って一体・・・というわけでお話を伺ったのが、新文芸坐の花俟良王(はなまつ・りょお)さん。知られざる名画座の裏事情と、“提供する”映画への思いとは。
“ここでしか味わえない”をテーマに編成された上映プログラム、イベント上映会の仕掛け人であり、ユニークな企画タイトルの名付け親でもある花俟さんですが。
花俟 確かに、企画のネーミングには力を入れてます。例えば以前やった企画だと、ストーリーよりも作品の雰囲気を楽しむ映画を集めた『境い目ぼんやりナイト』、人間とかがドロドロに溶けるホラー映画を集めた『春のドロドロオールナイト』、あとはクリスマスにライアン・ゴズリングの企画をやった時の『メリー・ゴズリマス!』とか(笑)。SNS等で、そこが目に止まって劇場に来てくださるお客様も結構多いんですよ。
スカーレットのポロシャツは新文芸坐ユニフォーム!
今回の企画は8月に行われた企画、『青春の風景〜Girls Side〜 彼女が羽ばたく、少し前』の対比となるイベントでしょうか。様々なコンプレックスを抱き、世界に絶望する冴えない少女の成長を描いた『スウィート17モンスター(2017)』、思春期に抱く対人関係の悩みや、将来への不安と希望を繊細に描いた『パロアルト・ストーリー(2013)』等、“青春”にフォーカスした4作品が上映されましたね。
パロアルト・ストーリー/Photo: HOEP
花俟 そうです!もともとGirls SideとBoys Side、男女両方の視点から観るために当初から両方企画していました。ただどうしても僕は男なので、女性を美化してしまうんですね。きっとそれがサブタイトルにも表れているんだと思います。
どちらのイベントもテーマは“青春”。今回の“男性視点”でのラインナップにはどのような意図があるんでしょうか。
花俟 思春期の男って、本当におバカで単純なんです。でも、これは男として言わせてもらいたい。とにかく“熱い”んだと。くだらないこともするけど、不器用ながらに色々な想いや、“純”なエネルギー、人生を突き抜けていくパワーを内に秘めているのが、思春期の男の子なんだということ。ラストの『シング・ストリート(2015)』はこのプログラムの核になっている作品です。くだらないけど愛おしい3本を観た直後だからこそ伝わる、“熱い”ものがあるんじゃないか。そう考えてこの編成にしました。
シング・ストリート/(c)2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
花俟さんご本人が登壇してMCを行う等、上映前に自らプレゼンテーションするスタイルは昔から?
花俟 最近からです。例えば今は娯楽がそこらへんに転がっていて、家の中だけでもハッピーに過ごせる人は過ごせてしまう時代です。わざわざ映画を観に出掛けたり、ましてや夜通し観るなんて時間の使い方は贅沢なことになってきた。観て欲しいけど、観てくれない人もいっぱいいるんだろうなって。それを解った上で、この仕事をしています。
どこでどう過ごしても、時間だけは返ってこないですもんね。
花俟 使ってくれているのは皆さんの貴重な時間ですから。あと僕は観た映画のことはあんまり覚えてなくても、内容よりも映画館のことは覚えていたりする。“空間”ってすごく大切だなと。だから作品編成だけじゃなくて、その場でも何かできることはないか、と考えて始めたのが前説です。そういうの嫌なお客様もいるかもしれないけど、来てくれたからには、少しだけ提案したい。そんな風に、僕もだんだん変わっていきましたね。
スラッカー/©1991 Detour, Inc
花俟 要は道案内をしているイメージです。特にオールナイトで朝まで映画を鑑賞することは、それができる限られた人だけが過ごせる貴重な時間。SNSで知って来てくださる若い方も見かけますが、例えば青春映画を観た若い方に、「君らの青春も今しかない!貴重なんだ!」と頭ごなしに言っても伝わらない。でもぼーっと観てても気付かないままかもしれない。それを受け取りやすいようにサポートしたい。そういう時に前説します。緊張しますが(笑)。逆に作家特集など、お客様のアンテナが同じ方向に向いている時は、前説はしないようにしています。
世間では最近、“名画座女子”なんてワードも生まれているとか。
花俟 名画座へのイメージもだんだん変わって、若い方にも一人で来ていただける土壌が出来てきました。僕自身そうであるように、みなさんに映画から素晴らしい体験を味わってもらいたい。それをきっかけに人生がより良い方向に転がっていって欲しいです。一番嬉しいのは涙目でホールを出てくるお客様を見た時。単に気分転換のツールでもあるし、タイミングによっては、一生を変えてしまうものにもなり得る。それが映画ですよね。
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上映中にあらゆるシーンと自分の人生を何度も結び付けてしまった。タイムリーな言葉に動揺したり、逆に登場人物を反面教師にしてみたり。劇場を出る頃に外はもう明るくなっていて、残ったのは眠気と“すぐれた”作品のデトックスによる、心地よい疲労感。
(最後にもう一度!)毎週土曜にオールナイト上映が楽しめるのは池袋・新文芸坐だけ。なんだかうまくいかなかった一週間の終わりや心が疲れている時、ベッドで一人モヤモヤするより、映画を観ながら朝を迎えるのもいいかもしれませんよ。
新文芸坐
東京都豊島区東池袋1丁目43−5 マルハン池袋ビル
☎︎03-3971-9422
通常上映 / オールナイト上映
twitter @shin_bungeiza