小説家・西加奈子、最新作『おまじない』を語る

小説家・西加奈子、最新作『おまじない』を語る

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おじさんが、悩める女の子を救う!?約8年ぶりの短編集に込めた想いとは


生きていくためには杖になる言葉が必要。それは立派な人が残した金言である必要はなく、世界でただ自分ひとりだけに、絶対的効力を発揮してくれれば十分だ。西加奈子の新作『おまじない』は、悩みを抱える女の子が、おじさんの言葉に救われる短編集。そこには、「すべての女の子を肯定したかった」という強い想いが込められていた。

「ジェンダーフリーやフェミニズムの運動が盛んになって、昔よりずっと生きやすくなったと思う反面、自由にしてくれるはずのムーブメントに逆に苦しめられる瞬間もあるなって。たとえば、サラダを取り分けたいのに女子アピールしてると思われるんじゃないかとか、『可愛いね』って言葉に過剰に反応したりとか…。感情に素直でいようとするほど葛藤も生まれてしまって。それって、〝女の子〟という呪いを自分自身にかけてしまってることやん。そんなふうに固くなってしまった心を、おまじないで解いてあげる物語を書きたいと思ったんです」

小学生、キャバ嬢、レズビアン…。人生の転機で悩み傷つく8人の女の子が本作の主人公。短編「いちご」では、東京で暮らすファッションモデルの、雑誌やインスタグラムで日々拡張される華やかな世界と実像の乖離が描かれる。おまじないの言葉をくれるおじさんは、その対極に設定された田舎暮らしの〝いちご狂〟だ。

「モデルの役割も、東京で生活するために必要な敏感さも。それを選択して生きてる人には潔い覚悟を感じる。でも、流行が毎年変わるような曖昧な世界にいると、絶対的な価値観を持ってる人が、ふと眩しく見えるときもあるよなって。だからこそ彼女はきっと、いわゆる〝おまじない〟然とした言葉からは程遠いものに救われるんじゃないかと思ったんです。…実はこれ、私が実際昔ある人に言われた言葉でもあるの(笑)」

執筆中には、妊娠・出産も経験。「マタニティ」では、母親になることへの不安、禁忌とされる醜い考えが綴られる。物語の着想は意外にも清原和博氏のニュースから得たという。

「犯罪は、絶対あかん。でも、私たちに彼を一方的に叩く権利はあるのかなって。マッチョに生きるしかなかったしんどさを想像したくて。妊婦って存在に当然のように求められる神聖さも、それに似てて。母親だって強くなくたっていい。弱くても醜いこと考えても、産める社会じゃないとあかんって」

最終話「ドラゴン・スープレックス」は、これまで描いてきた〝言葉の力〟を覆す。アフリカ系ハーフの主人公が、迷信に夢中だった〈おばあちゃん〉の死後、残されたおまじないを持て余してしまう。

「おまじないは自分を幸せにするためのものだけど、それに囚われて余計苦しむのなら捨ててもいい。私の小説に対しても同じで、救いになれたらもちろんうれしいけど、そう思えなかったなら簡単に読み捨ててほしいの。すべてのことから自由なんだよって想いを、〈お前が決めてええねん〉という最後の言葉に込めました」

『おまじない』西 加奈子
筑摩書房 ¥1,300

小説 おまじない

Photo: Kaori Nishida   Text: Ayako Kimura   

GINZA2018年4月号掲載