6歳でいけばな小原流の五世家元を継承し、2018年に作品集『NOVUS PLANTS 奇想の植物』を刊行。華道の新たな魅力を打ち出し続ける31歳の創造源に迫る。
小原流家元・小原宏貴さんと紐解くいけばなの世界 GINZAの花通信vol.8
眺めて、触れて、語らう植物は永遠のパートナー
「この写真は石垣島の森で自生するヘゴに睡蓮やネオレゲリア、ヘリコニアをいけました。原生林を前に手が動いたんですよ。個性が異なる植物の〝生命〟が出合って新たな息吹が生まれました」
20代の集大成として刊行した『NOVUS PLANTS 奇想の植物』におさめた作品が生まれた過程を教えてくれた。収録した68点の作品はもちろん、撮影の構図もすべてディレクションした。唐辛子やトウモロコシ、湖で拾った流木など多種多様な材料で仕上げている。小原宏貴さんにとって、花はどんな存在なのだろうか。
「もはや暮らしの一部ですが、尽きない興味の対象でもあります。植物の痕跡があると見ずにはいられない。いけばなを始めたのは小学校低学年でした。私の師は切り花、実、鉢モノや巨大松ぼっくりなどあらゆる花材を用意してくれていて。『あなたは生涯を通じて花をいけていくので、まずは習うよりも好きになりましょう』と。いけばなは作品を正面から見た際の花の表情が大切になります。初めていけた作品で私の挿した花の向きを少し直してくれたのですが、それで見違えるほどきれいに。植物のもっとも美しい〝顔〟を引き出せる技にすっかり魅了されました」
植物が発する小さな〝声〟をつぶさに聞き取った結晶
「いけばなの意味を辞書で引くと、木の枝や草花を切り取って花器にさすもの。室町時代に生まれた。と記されていると思います。捉え方は人それぞれですが、私にとっては〝生命〟との対話。植物は共同製作者でもあるので、彼らの〝声〟に耳を澄ませる。『私は斜めから見た方がきれいなんやけど、そのようにいけてくれへん?』という要望が出てきたら、それに従う。そんなふうにいける方がアプローチとしてもスムーズかと。いけばなにおいて、いい仕事というのは手早く作品を完成させることです。時間が経つほどに植物は傷むし、人間の熱で弱っていく。ささっと仕上げた方が彼らにとってもストレスフリーなんですよね。
花材は一つとして同じものはないので、対峙した瞬間から手が動くときもあるし、15分経っても彼らの声を拾えないこともある。それでも投げ出さずに語りかけてくれるのを待ちます。もちろん頭の中で描いたイメージを表現することもありますが、これまでの作品を振り返るたびに、パッと浮かぶのは植物との対話から生まれた作品たちですね」
花と深く向き合えるいまこそいけばなの基本と前衛性を発信
「20代は表現の引き出しを増やすために新しい花材を探求し、積極的に枠を広げようとしました。乾燥した葉のかっこよさに惚れ込んで、枯れ葉で創作したことも。すべての瞬間に〝美〟を見出すのがいけばなの特徴です。経験の蓄積が増えたいまは、〝蕾が開いて朽ちるまで〟を観察しています。これからはいけばな業界の課題にも取り組みたいですね。伝統花材の栽培が減りつつある中で、流通する花材で伝統的な技法を表現する挑戦もしなくてはと考えています。一方で、最近はタイやインドといったアジアでも人気に。いけばなの伝統と革新を知っていただくことに力を入れていきたいです」
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小原宏貴
1988年、神戸市生まれ。国内外の大学を会場に学生向けのいけばな講義も行うなど、幅広く活動。