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まだ語り足りない『大豆田とわ子と三人の元夫』時々助けてくれるだけの大切な存在を愛おしむ

まだ語り足りない『大豆田とわ子と三人の元夫』時々助けてくれるだけの大切な存在を愛おしむ

4月13日にスタートした『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系火曜夜9時〜)が6月15日放送の10話で最終回を迎えた。脚本は、最近では映画『花束みたいな恋をした』が大ヒットした名手・坂元裕二。前半考察レビューの好評を受け、ドラマ、演劇に詳しいライター・釣木文恵が、話題を呼んだドラマの後半を振り返ります。


他の誰にもならない「大豆田とわ子」の揺るぎなさ

冒頭からいきなり私ごとで恐縮だが、自分の名字はかなり珍しい方だ。幼い頃から「結婚したらもったいないね」と言われて育ってきた。慎森(岡田将生)的にいえば「結婚したら名字が変わるのって必要かな?」という話だが、結婚で女性が名字を変えることの方が圧倒的に多いのは、2021年時点の現実だ。

で、大豆田とわ子(松たか子)である。
とわ子の元夫は、田中八作(松田龍平)、佐藤鹿太郎(角田晃広)、中村慎森と、いずれも日本に多い順に上から選んだかのような名字だ。とわ子は彼らと結婚して、三度平凡な名前になった。けれど、やはり大豆田に戻った。

とわ子はある日突然、親友・綿来かごめ(市川実日子)を亡くす(この名字も珍しい)。その一年後、ラジオ体操で出会った男性に惹かれる。とわ子と同じく数学好きの彼と、結婚するかもしれないところまで行くが、別れる。オダギリジョー演じる彼の名字は小鳥遊(たかなし)だ。最終回で突然現れた初恋の君は甘勝だし、1話で出会ったクヒオ大佐のような詐欺師(斎藤工)は御手洗。結局成就しない相手は、とわ子と張るくらい珍しい苗字の持ち主だ。そういえば娘・唄(豊嶋花)の彼氏は西園寺くんだった。

とわ子は他の誰でもなく、他の誰にも属さず、小鳥遊でも、もう一回田中でもなく、大豆田とわ子として生きていくことを選ぶ。電話口で西園寺に名乗る時も、「唄の母です」じゃなくて「大豆田とわ子と申します」と言う。とわ子はいつも独立した個人として、相手に対峙している。

助けてくれる人は案外いるのかもしれない

とわ子の父は「お父さんとお母さんが、あなたを転んでも一人で起きる子にしてしまった」と言ったが、とわ子は最終話で自動ドアに挟まって、大声で助けを呼ぶ。見ず知らずの人にさえ、助けられて生きている。思えば1話から、穴にはまって八作に助けられていたじゃないか。

思いがけない不幸はときどきやってくる。けれどそのたびに、助けてくれる人が現れる。助けてもらったとわ子は感謝をするけれども、それを理由に相手に従属することはない。相手もそれを求めない。

「私、ちゃんといろんな人に起こしてもらってきたよ。今は一人だけどさ、田中さんも佐藤さんも中村さんも、みんな私がころんだ時に起こしてくれた人たちだよ」

ドラマを観ている人たちにも、元夫のような存在がすでにいるかもしれない、あるいは現れるかもしれない。現実離れした話にも思えるけれど、田中さんや佐藤さんや中村さんを見つけることは、御手洗さんや小鳥遊さんや甘勝さんを探すほど、難しいことじゃないのかもしれない。

1対1でつながる以外の生き方

昨年放送されたスペシャルドラマ『スイッチ』(テレビ朝日)で坂元裕二が描いたのは、お互いの新しい恋人を紹介し合うような、別れて十数年経ってもともに生きる元恋人同士だった。このときは、二人とも共通の大きな経験をして、かなり特殊な人生を歩んできたために、松たか子演じる蔦谷円には、阿部サダヲ扮する駒月直がそばにいなければならないという状況だった。

『大豆田とわ子』には、人生を揺るがすようなできごとはない。もちろん会社がのっとられることも、親友が亡くなることも、とわ子の人生の上ではとても大きなことだけれども、三人の元夫には直接関わりがない。けれども元夫たちはとわ子を見守る。愛する。大半は近くで雑談をしているだけだけれど、時々助ける

1対1で愛を誓い合い、一生この人と決め、結婚して家族を作るのはひとつのかたちだ。もちろんそれもすばらしい。けれど、そうじゃない方法もある。一人で生きていくことは、決して不幸なことではない。自分で選び取って、誰かこの人と決めることなく、いつか離れ離れになったとしても、関わった人たちが「笑っててくれたらあとはもうなんでもいい」と思いながら生きていく。そういう生き方がありえるのだということを、『大豆田とわ子と三人の元夫』は教えてくれた。

『大豆田とわ子と三人の元夫』公式サイト(カンテレ)

脚本: 坂元裕二
演出: 中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
出演: 松たか子、岡田将生、角田晃広、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン 他

Profile

Writer 釣木文恵 つるき・ふみえ

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Profile

Illustrator まつもとりえこ

イラストレーター。『朝日新聞telling,』『QJWeb』などでドラマ、バラエティなどテレビ番組のイラストレビューを執筆。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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Edit: Yukiko Arai

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