「すばらしいファッションフォトに必要なことは?」「難しい質問だね。おそらくタイムレスと感じられることなんじゃないかな。かつファッションのコンテキスト以外の場所でも生きているような写真。」とSHOW STUDIOの映像インタビューでそう答えるフォトグラファー、ジェイミー・ホークスワース(Jamie Hawkesworth)。
〈J.W.Anderson〉の初キャンペーン2013AWからデザイナー、ジョナサン・ウィリアム・アンダーソンと一緒に〈LOEWE〉含めキャンペーンを撮り続け、ほかにも数々のファッションブランドやファッション雑誌などで独自のスタイルが揺らぐことなく写真を撮り続けてきた。
そんな彼の最初期・2010年以降にイギリス北部のバスターミナルを行き交う人々を撮影した初写真集「PRESTON BUS STATION」が刊行された。
いまやファッション業界ではフォトグラファーとして欠かせない存在だが、彼のバックグラウンドを紐解くと、実は大学入学時の専攻は法科学と犯罪捜査学についてだった。当時の彼からするとフォトグラファーになるなんて考えていなかったそうだ。そんなアカデミックな分野から写真への才能が開花するきっかけは、授業で行われた模擬犯罪現場での証拠写真撮影。自分の手でカメラを通して被写体を何かに変える面白さにはまると同時に、初めて自分が熱中できたものとして写真への気持ちが徐々に膨らみ、途中で写真のコースへ移る。そしてドキュメンタリーフォトグラファーのもとでアシスタント経験を積み、ファッションの世界へ入ったのはジョナサン・アンダーソンとチームを組んでいるスタイリスト、ベンジャミン・ブルーノ(Benjamin Bruno)との出会いからだ。
本書籍「PRESTON BUS STATION」の写真を撮り始めた一番最初のきっかけは、在学中のプロジェクトだった。「当時、写真の先生であった Adam Murrayと一緒にあるプロジェクトを行なっていたんです。それは週末にプレストン・バスステーションに行き、そこで見かけた様々な 10 代の若い子たちのポートレイトを撮影して、ニュースプリントの冊子にまとめることでした。」そして数年後、この象徴的な建築が取り壊される話を聞いた彼はある決意をする。「プレストンに戻って、1ヶ月間毎日プレストン・バスステーションで撮影をしようと思いました。バスターミナルは一続きになっていたので、目に留まる人たちがひょっこり現れないかと毎日毎日、そこを一日中歩き回っていました。それ以上のことは特に考えないことにして、気になった瞬間に誰であろうと撮影しました。あの場所はメガバスも利用できたので、北の方からプレストンを経由して南に向かうなんてこともあったし、本当に面白い人たちで溢れていたんです。良さそうな人を見つけたらお願いしてポートレートを撮影していたのですが、なるべく自然に依頼するようにしていました。おじいさんや、おかしな髪型をした人、おもしろい靴を履いた子供とか、とにかく色々な人を撮らせてもらいました。」
そう語る通り、ページをめくっていくとファッションシューティングとは異なり、ありのままの被写体の姿が映されているにも関わらず、彼らひとりひとりの個性が素直に伝わってくる。ジェイミー・ホークスワースのピュアで素朴な原点を知ることができる1冊。
“PRESTON BUS STATION”(C) Jamie Hawkesworth
書籍概要
「PRESTON BUS STATION」
作家: Jamie Hawkesworth
出版社:DASHWOOD BOOKS
発行部数:2,000 部
販売価格:12,000 円(税別)