映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』坂本龍一が本人主演のドキュメンタリー映画を語る

映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』坂本龍一が本人主演のドキュメンタリー映画を語る

2014年、当時62歳の音楽家・坂本龍一は人生初の大病に冒される。中咽頭ガン。病の当事者はこう感じたという。 「本当に死ぬかもしれない」

死への恐怖でおびえた。でも、カメラは遮らなかった。むしろ、「(監督の)シブルさん、すごい山場がきちゃったよ。おめでとう」

という考えすらよぎった。坂本は言う。「映画とは残酷なものですから」。83年公開の『戦場のメリークリスマス』に役者と音楽制作で関わって以来、〝映画人〟としての物差しを持ってきた。だから止めなかった。映画の力になれば、それでいいんだと。

坂本龍一

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ドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』は、坂本が東日本大震災の被災地・宮城県名取市を訪れる場面ではじまる。坂本の目前には津波で被災したピアノがある。

撮影期間は5年もの長期に及んだ。3・11、闘病。そして『レヴェナント: 蘇えりし者』の劇中音楽、8年ぶりのソロアルバム制作にも挑んでいる。重圧に耐え、地味な仕事を黙々と遂行する姿に「華」はない。むしろ、劇中で度々引用される青年期の記録映像と比べれば、隠しようもない老いが印象に残る。「体力はうんと衰えた」と本人は言う。

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「20代のころにやっていたYMOは腕力の音楽。ロック的に聴こえる。いまはもうできませんね。けれども、65歳だから見えることもある」

坂本は、細野晴臣が言ったことで、こんなことを覚えている。細野は80代キューバ人ベーシストの演奏をこう評したのだった。

「豆腐を切るようにベースを弾く」

坂本もウラディミール・ホロヴィッツ(1903〜89年)が遺したピアノ演奏に通ずるものを見た。

「晩年。指は動かなくなっていて、もうヨボヨボしている。でも、この演奏が素晴らしい。自分がこんなことをできたら、もう死んでもいい。でも、まだまだその境地ではない。先は長いなと楽しみになってきたところなんです」

そう、長く生きるからこそ実感できる変化がある。こんなこともあった。中咽頭ガン発症の3年前、20年以上暮らしたNYから、住まいを日本の京都に変えようと考えた。「そろそろゆっくりしたい」と。結局病気でご破算になったが、闘病中、NYで1年を通して暮らした。初めての経験。元気で多忙だったころにはわからなかったNYの四季を味わうと、「愛着が生まれた」という。

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生きる。それは、わからなかったことがわかるようになること。実は、この映画の終盤でもそんな場面が描かれている。鍵は津波をかぶったピアノだ。

坂本龍一の映画音楽
映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』坂本龍一が本人主演のドキュメンタリー映画を語る
『戦場のメリークリスマス』

坂本に映画音楽で世に出るきっかけを与えたのが、大島渚監督作の『戦場のメリークリスマス』だ。第2次大戦時、日本兵と捕虜の間で起きる魂の交流を、あまりに有名なあのフレーズが追走する。坂本はヨノイ大尉役で出演。音楽では英国アカデミー賞作曲賞を受賞する。

映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』坂本龍一が本人主演のドキュメンタリー映画を語る
『ラストエンペラー』

イタリアの巨匠ベルナルド・ベルトルッチが監督した清朝最後の皇帝、溥儀の生涯を描いた大作。アカデミー賞作曲賞を日本人として初めて受賞し、ほかゴールデングローブ賞作曲賞にも輝いた。

映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』坂本龍一が本人主演のドキュメンタリー映画を語る
『レヴェナント: 蘇えりし者』

ガン闘病からの仕事復帰を果たしたのは、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の大作でのことだった。あるハンターが生存と復讐のために、厳冬の地を踏破する物語。坂本は抑制した音楽で演出をしている。

映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』坂本龍一が本人主演のドキュメンタリー映画を語る
『Ryuichi Sakamoto: CODA』

世界的音楽家、坂本龍一の音楽と思索の旅を捉えたドキュメンタリー。5年間にわたる密着取材、アーカイブ素材、プライベート映像や写真とともに、その音楽的探求を正面から描く。スティーブン・ノムラ・シブル監督作。公開中。
©2017 SKMTDOC, LLC

Text: Toshihiro Okamoto Edit: Shun Sato, Akira Takamiya

GINZA2017年12号掲載

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