近年、じわじわと盛り上がりを見せている「ヴィンテージ・ソウル」。シーンのリスナーを公言している坂本慎太郎さんに、その魅力を聞きました。
坂本慎太郎 | リバイバルでも、コスプレでもない
「昔の人かなと思ってたら、今の人だった」。坂本慎太郎さんがその驚きを素直に証言したように、「ヴィンテージ・ソウル」あるいは「チカーノ・ソウル」といった括りで紹介されるアーティストたちが、ここ数年で確実に増えている。伝統的なソウルのサウンドをモダンな新しさに変換して伝える「ヴィンテージ・ソウル」について、坂本さんはこう語る。
「2013年頃で、アメリカ・オークランド出身のソウルデュオ、Myron&Eがフィンランドでレコーディングした『On Broadway』というシングルでした。曲もよかったし、バンド(The Soul Investigators)のドラムの音が完璧に僕の好きな音だったし、古いソウルをリバイバルでやっているという感じがしなかった。僕はずっと新譜で買いたいレコードがない人生だったんですけど、普通に〝いいな〟と思えるものがいつの間にか出てきましたね」
アメリカのビッグ・クラウン、コールマイン、ペンローズ、フィンランドのティミオンなど、現在のシーンを牽引する各地のレコードレーベルの作品を通じて、かつて自分がガレージパンクのレコードを買っていた頃にも似た興奮を覚えているという。 「シングル盤だと歌っている人たちの顔もわからないけれど、レーベルで品質が保証されているし、曲がいいから、誰か知らなくても買う楽しさがあるんですよ」
今年7月のDurand Jones & The Indicationsの来日公演では、彼らのラブコールを受けた坂本さんが飛び入りで自身の楽曲「ツバメの季節に」を歌うという、スペシャルな共演も実現した。
「歌いやすかったですね。彼らは身近に音楽がある感じがした。普段の生活の中にずっと音楽が存在していて、楽屋とステージの上が全部つながっていると思いました」
その感覚こそが、単に〝ヴィンテージ=古い〟ではなく、ヴィンテージと今を交差させる、現代的な更新の秘密なのかもしれない。
坂本さん愛聴の私物レコード10枚
Myron & E with The Soul Investigators 『Broadway』(13)
「このアルバムにも入っている『On Broadway』と『Everyday Love』を、友人のQくんがシングルでDJしていたんです。めちゃくちゃいいなと思って、すごくハマりました」
Bobby Oroza 『This Love』(19)
「アルバムが出る前から、シングルの『This Love』が僕らの周辺で話題になっていました。ヴォーカルが歌い上げる感じじゃなくて、演奏もわりとサラッとしているのが好みです」11月に初来日したばかり! 甘い歌声が魅力
Brainstory 『Buck』(19)
「ビッグ・クラウンというレーベルが面白いと思って。中でもBrainstoryと、Holy Hiveというバンドが好きです。ヴォーカルの力の抜け具合がちょうどよくて気持ちがいいですね」
Holy Hive 『Float Back To You』(20)
「これも同じビッグ・クラウンです。もろにヴィンテージ・ソウルって感じじゃないけど、音の質感に古めかしさもあるのが今っぽいのかな。これもゆるくていいんです」
Durand Jones & The Indications 『American Love Call』(19)
「買ったときは彼らが何者か、まだあんまりわかっていなかった。新作『Private Space』もいいですけど、ヴィンテージ・ソウル感はこっちのほうがあるかなと」
Aaron Frazer 『Introducing…』(21)
「これもQくんが早くにハマっていて、教えてもらったんです。Durand Jones & The Indicationsのドラマーだって、知って驚きました。ジャケも、曲も、ファッションもいい」
The Resonaires 「Standing With You」(21)
「コールマインからのシングルです。このレーベルを見るとなんとなくチェックしていますね。両面いいんですけど、B面がNeil Youngのカヴァーで、もともと好きな曲なんです」
The Harlem Gospel Travelers 「Nothing But His Love」(21)
「これもコールマイン。ゴスペルの人たちらしいです。本格的なゴスペルはあんまり趣味じゃないんですけど、彼らはちょっと軽くて抜けがあって、特にこのA面が好きです」
Wesley Bright & The Honeytones 「You Don’t Want Me」(18)
「このシングルはQくんが僕の誕生日プレゼントにくれたんです。サウンドはもろソウル。これもドラムの音がすごくいいし、B面が好きです。アルバムは出ていない人ですね」
Pepe Marquez feat. Miriah Avila 「Gimme Little Sign」(21)
「メキシコ系のシンガーらしいです。Brenton Woodの『Gimme Little Sign』という曲がもともと好きで、そのカヴァーをやっているんだと発見して買いました。MVもいいです」
坂本慎太郎 さかもと・しんたろう
1967年大阪府生まれ。2022年6月に最新アルバム『物語のように(Like A Fable)』を発表。10月から12月にかけて全国ツアーを開催している。zelonerecords.com
Photo: Wataru Kitao Text: Ryohei Matsunaga