【TOP画像】AKI INOMATA《やどかりに「やど」をわたしてみる-Border-》
やどかりに「やど」をわたしてみる、ミノムシにドレスを着てもらう、ビーバーが歯で削った彫刻……。そう聞いただけで、きっとわくわくしてくるはず。生物の観察と調査を通して独創的な作品を作り出す美術家AKI INOMATAの、日本の美術館では初となる個展が十和田市現代美術館で開催中だ。いきものをコラボレーターと呼ぶ彼女の一風変わった世界観が味わえるこの展覧会をレポート。
《girl, girl, girl , , ,》展示風景 2019年 Photo:Eisuke Asaoka
そもそも、美術館の展示室とは、生花一輪入れてはいけないというほど、生き物はNGの空間だ。作品を虫やカビや湿気といったダメージにつながりかねない要素から切り離すためなのだが、今回はその真逆を行っている。
最初の展示室にあるのは、《girl, girl, girl , , ,》というミノムシの作品。小枝にぶら下がっているのは、葉っぱではなく、細かく切られた布片をまとったミノムシたち。カラフルな布をランダムに選んで自分の体に貼り付いている。当然ながら生きているから、たまにこそっと動くし、日々着るものも変わっていくという。知らなかったけど、ミノムシのメスはまとった“みの”から出ないまま、一生を終えるらしい。そう聞くと、彼女たち?がドレスを着ている様子もまた、何か感慨深く見えてくる。
《girl, girl, girl , , ,》2019年 Photo:Eisuke Asaoka
廊下には、いろいろな動物園にいるビーバーたちが歯で削った丸太が展示されている。どれも同じかたちはひとつとしてなく、けれど、くびれをもったその形はなんとなく人体を模したように見える。ビーバーは木の幹を削り、倒したものを積み上げて巣を作る。そのための「くびれ」がまったく違う意味をもつ瞬間だ。
《彫刻のつくりかた》展示風景。ビーバーが削った丸太の形もなかなか個性的。
映像作品は、今回のために作ったという新作。会場のある十和田でかつて人と暮らしていた南部馬をモチーフにしている。今は別の種類と掛け合わされたものしか残らず、絶滅してしまった南部馬の骨格標本をミニチュア化して再現、それに氷を肉としてまとわせた。その馬はコマ撮りによって雪原を走る。