音楽は寒い日のコートのようなものかもしれない。包み込むように暖かく、 心を満たす歌声やサウンド。注目アーティストがそれぞれの物語を、冬の新作とともにお届けする。
注目アーティストがまとう、冬の新作。AAAMYYYとガウンコート編
柔らかな音像を追う
日のあたる場所
ウールのハーフガウンに抽象柄のワンピース。ヴィンテージが好きだというエイミーさんをイメージしたコートの着こなしは、明るいオレンジの髪色ともしっくりなじむ。
「そうなんです、買いものは古着屋が多くて。いろんな人に教えてもらったり、メンバーのおすすめを聞いて、ツアー先で立ち寄るショップが各地に。北海道のお店でスーパーロングの薄めのダウンコートを買ったことがあってそれもお気に入りです」
浮遊感のあるサウンドとハスキーな歌声。どこかベールに包まれた雰囲気があるけれど、その経歴はユニークだ。
意外にも「夏は陸上にバレーボール、秋冬はスピードスケート」に熱中したスポーツ少女で、大学時代の目標は「エミレーツ航空のCA(客室乗務員)になる」こと。その夢を叶えるために留学した先のカナダでアグレッシブローラーブレーディングにはまり、それが自ら音楽制作をするきっかけになった。
「田舎で育ったからいろんなところを旅したいという気持ちがあって、CAなら世界中に飛んでいけると思ったんです。カナダを選んだのは綺麗な英語を学べるよと聞いたから。最初はローラーブレーディングに興味を持って、トリックのビデオクリップを作るのにみんながBGMにテーム・インパラやゴリラズとかを使ったりしてたんですよね。それで初めて海外のインディーズを知って、クリップ用に曲作りを始めたんです」
軽音楽部だった高校時代から音楽には興味があったが「ごく人並みにというか(笑)。誰かの前で歌うのも苦手でした。当時はビヨンセやリアーナとかのディーバ文化で、声量があって、艶のある声が〝歌手〟だというのが一般的なイメージ。ウィスパーな私の声は向いてないのかなって感じていました」。
自分の歌声を認められるようになったのはずいぶんあとで「呂布やテンダーのサポートをしだしてからです。ずっと呼んでくれるから、あ、これでいいんだと思って」と笑う。
最近は仕事でもオフでも、また新たなフェーズへと意識が向いている。
「7月にリリースしたEPは全曲フィーチャリングなんです。あのちゃんやシックボーイ君、あとグリコというカナダ出身の3兄弟のバンドとか、一緒に作ったアーティストもその時のマインドに通じる人を知らず知らずに選んでいました。ちょうど世の中でいろいろ問題が起きていた時期だったんですよね。私は基本的にネガティブな考えをすることが多いんですけど、みんなのおかげでそんなに悲観的にならず、明るい方を見てもいいんじゃないっていう思考になれて。けっこう自分自身にとって救いになる、そんな1枚になったかなと思います」
プライベートでは、いつか山で暮らしたいと以前に語っていたが、たまたま横浜で一軒家を見つけ海の近くへと移り住んだそうだ。そして「まさか自分が、と想像もしてなかった」というが、ヴィンテージ風のオープンカーを手に入れて毎日運転を楽しんでいる。
制作については「気が向いたときに曲のアイデアを書きためてます」とエイミーさん。
「ヒーリングやインスト曲、コーラスワークだけで作る曲とか。今はビートというより優しい音像を求めているのかもしれません。ビヨンセの新譜『Break My Soul』を聴いたときに、すごくかっこいいなと思いました。これまで女性の美しさや強さを歌で賛美してきた彼女が、本作では音楽をエンジョイしていて。私も今は自分のために楽曲を書いている部分があるんですが、この先いろんなことを経験しながら、やっぱり音楽家として突き詰めていきたいなと。それはソロ活動でもバンドでも一緒。みんなそれぞれの屋号がありながらアベンジャーズみたい(笑)に集結して、そこから面白さが生まれる。だから、個々が日々楽しく、クリエイティブでいることが大切だなとあらためて感じています」
デフォルメされたシルエットを落ち着いた色味でまとめたモードなガウンコート。ファーのマフでボリュームを盛って。コート ¥132,000、ネックウェア ¥49,500(共にアクネ ストゥディオズ | アクネ ストゥディオズ アオヤマ)/ドレス ¥59,400、アームカバー ¥36,300(共にトーガ プルラ | トーガ 原宿店)/シューズ ¥195,800(ジャンヴィト ロッシ | ジャンヴィト ロッシ ジャパン)
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AAAMYYY
エイミー>> シンガーソングライター、トラックメイカー。2017年からソロ活動を開始、2018年Tempalayに正式加入。アーティストコラボや楽曲提供、モデルなど幅広く活動中。7月にデジタルEP『ECHO CHAMBER』をリリース。