音楽は寒い日のコートのようなものかもしれない。包み込むように暖かく、 心を満たす歌声やサウンド。注目アーティストがそれぞれの物語を、冬の新作とともにお届けする。
注目アーティストがまとう、冬の新作。ermhoiとモッズコート編
混じり合う音を蓄積して
次なるステージへ
「包まれているような気分」になる、文様を織った深い苔色のジャカードのモッズコート。丸みのあるコクーンのシルエットは、エルムホイさんが好んで手に取る形でもある。
「身体のシルエットがカッコよく見えますよね。毎年、冬によく着ている黒のダウンコートと似たボリューム。基本、ロング丈のアウターに惹かれるんです」
最近でこそブランドの服も選ぶようになったが、自分らしいと感じるのは既製品感のないもの。「母や姉のお下がりやヴィンテージとか。もともとは何枚も作られたものなんだけど、経てきた時間があると違って見えるのがいいなって」とエルムホイさん。同じ服でも、合わせ方を工夫して楽しんでいる。
「飽き性なので毎回どこか変化をつけたくなるんです。同じ着方はしたくなくて、トップやボトムは一緒だけど靴下はこっちにしようとか、毎日変えたくなっちゃう」
すでに存在するものを別の視点でとらえる、それは音へのアプローチでもリンクする点だ。 「今年はリミックスの仕事が多くて、サウンドをチェンジするのがすごく面白かったんです。それで私の曲もリミックスする感覚で、ライヴで毎回アレンジを加えたりしています。すごく時間がかかるから、自分で自分の首を絞めてますよね。11月のツアーに向けてもフェスやライヴを重ねて調整しているところで、大胆にアレンジしているので同じ曲に聴こえないかも(笑)。なんでこんな面倒なことをと思いますが、次のステップに進むための準備段階なのかもしれません」
ソロプロジェクトだけでなく自身のユニットやミレニアムパレードの活動でも、今は表現の仕方を見つめ直す作業に集中している。
「たとえば楽器をやるとか、他の人と演奏してみるとか、これまでの人生のなかであまり挑戦してなかった部分に最近は取り組んでいます。互いに違う色を出し合うから、混ざり方や響き方も全然変わって、自分が予期しなかったものが生まれるんですよね。人と一緒にプレイするのは日々勉強。一人でパソコンと向き合って作るのは、それはそれで面白いんですが、結局自分の鏡というか、投影しているだけなので、もっと違うレイヤーが入ってくるのがいいなと感じていて」
何層にも重なり合う音楽性や、複雑に広がる歌声は、彼女が作り出す楽曲の魅力だ。その背景には、日本とアイルランドという自身のルーツや、つねにさまざまなジャンルの音に囲まれていた幼少期の環境、そしてアフリカンミュージックやヨーロッパの民族音楽などに傾倒した学生時代と、これまで影響を受けてきたすべてのサウンドがある。
「電子音楽が基本ですけど、そこを通して表現したいのは、自然界の未知な、理解できない部分だったりもします。山や森に囲まれて育ったから、ふと振り返るとそういう感覚は持っているのかなって。あと、いろんな音を無意識のうちに吸収していましたが、最近きちんと時間をとって昔の曲を聴いてみるとか、これまでふれていなかった音楽に接してみるようにしているんです。たとえば、ボサノバやMPBとか。1960〜70年代のミルトン・ナシメントとかもすごくいい。そうやって今いろいろと取り組んでいることが、ある程度の時間が経って自分の作品にどう影響するのか楽しみにしています」
生み出してきた曲は「聴く人に自由に受け止めてほしい」と語るが、見つめる先にはどんな世界が広がっているのだろうか。
「自分のなかでは伝えたい情景はあるけれど、それは具体的なメッセージというわけではなくて。好きに解釈してほしいなという気持ちです。将来的には、それぞれ独立している曲を一個の大きなストーリーとしてライヴで表現してみたいです。身体表現なのか、映像なのかはわからないですけど、ひとつの舞台のように。そこに行くには、まだまだ実力をつけないといけないですね」
グリーンの唐草紋の三重織ミリタリーコートを同じく深緑のサロペットパンツと。フードが取り外せるためスタンドカラーのコートとしても着こなせる。コート ¥165,000、シャツ ¥63,800、パンツ ¥92,400(以上マメ クロゴウチ | マメ クロゴウチ オンラインストア)/つけ襟*ブラウスとセット ¥19,800(アデュー トリステス)/ピアス ¥72,600、(シハラ | シハラ トウキョウ)
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ermhoi
エルムホイ>> 日本とアイルランドにルーツを持つ音楽家。ソロ活動のほかにBlack Boboiやmillennium paradeに参加。昨年末、ソロアルバム『DREAM LAND』をリリース。11月にはバンド編成の東名坂ツアーを実施する。