〈PERMINUTE〉デザイナー・半澤慶樹。「H&M DESIGN AWARD 2017」ショートリストにノミネート後のゆくえ

〈PERMINUTE〉デザイナー・半澤慶樹。「H&M DESIGN AWARD 2017」ショートリストにノミネート後のゆくえ

昇華する伸び代をもつアンダーグラウンドな存在がメジャーに台頭するサイクルが速くなることにつれ、注目を集める側はちょっとやそっとでは崩れない蓄積の強度を持つ必要がある。それはファッションやデザインに限らず「リサーチ」を伴うジャンルすべてに言えること。さもなければ、(天才でもない限り)大波を乗りこなす前にのみ込まれてしまう危険性をいつでも孕んでいる。

ファッションブランド〈PERMINUTE〉のデザイナー・半澤慶樹。コレクションを観る限りデザイナー自身もファッションフリークなんだろうと察したが、幼い頃に描いていた将来の夢は意外にも「研究者」だった。地学の教員の父親に影響を受けた少年は、夏休み自由研究へ抜かりがなく、ポートフォリオのように積み重なる冊子は2017年夏に展覧会を開けるほど。仮定→リサーチ→実証→結果から実験を繰り返す習慣は、ある日ファッションブランドとしての活動にシフトする。学生時代に2度もスランプを乗り越えながら、それでもリファレンスや素材、パターン、デザインなどを調合するファッションの研究者をやめられない彼の自宅でルーツを探った。


—これまでに2回展示会を経て、まだ〈PERMINUTE〉についての情報があまり公に出てない中18SSではショーを開催した。それらファッションとしての発表の場以外にも、昨年TAV Galleryで展覧会「乾いたアサガオ日記の跡」を開き、自身のルーツを空間として表現していたそうだね。

〈PERMINUTE〉というより「半澤慶樹」として色々な作家を巻き込んだキュレーション展示を行いたいという思いから始めました。僕の幼少期の体験として色濃く残っているのが、地学の教員の父親との思い出でした。書籍やサンプル、ビーカーなどが沢山並ぶ父親の書斎で遊んだ思い出や地元で特賞を取るほどの自由研究を熱心に作ったことなど。そういう自身のルーツから展示では「土」をテーマのもと総勢7名のアーティストに参加してもらいました。お盆明けが会期だったこともあり、全体の空間づくりは夏休みの少年の研究部屋をイメージしました。

—見たことない程の厚みの自由研究冊子だけど、幼い頃は父親と同じ職業に就こうと思ってた?

父親のように地学の教員になりたいと決めてましたよ。なりたいというより漠然とゆくゆくはそうなるだろうと思ってました。なので、大学も教育学部希望でした。でもちょうど試験前日に東北地方太平洋沖地震が起きて。その時にふとこのまま浪人なのか、ファッションの道に進むのか初めて迷いました。もともとファッションも同じくらい好きだったけど、デザイナーになりたくてもなれないだろうとも考えていました。それでも、今後の人生で後悔したくない一心で浪人してでもファッションの道に進みたいと思い文化服装学院に入ろうと決断しました。

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—ファッションに興味をもったきっかけは?

通ってた高校が唯一その地区で私服登校OKだったことがきっかけです。普段はシャツとかスラックスとかなんちゃって制服を着ていて、よくファッション好きな友達と福島から仙台に1時間半かけて買い物しに行ってました。当時はTUNEを読んでいたので、〈Stussy〉や〈phenomenon〉などストリート系のブランドに夢中で、その中でもm-floのVERBALさんのスタイリングに憧れてました。その一方で、自分で着るだけでは飽き足らずに鷲田清一さんの著書を読んだりして初めてモードというものに触れ、ファッションのもつ奥深さにどんどんのめり込んでいったのもこの時期です。

—文化服装学院の入学同時期に、ここのがっこうも入ったんだよね。上京してきた頃には既に気持ちは自分のブランドを立ち上げることを目指していた?

まだ迷ってましたね。いざ自分のブランドを立ち上げようと決意したきっかけは、4年生の時に起きたスランプです。まだ進路を悩んでいた頃に就職活動で、自分の行きたいテキスタイルの会社の内定がもらえて。そしたら、途端にここのがっこうで教わることへのモチベーションが下がってしまい、ついに最後には何も作れなくなってしまいました。当時ここのがっこう内で毎回授業の後に順位がつけられていたのですが、入学時上位だったのにスランプが起きてからは、最後から3番目になるほど順位も下がっていきました。でも自分の心のどこかでは「デザイナーになりたいって思って入学したのにこのままで良いのかな」という葛藤もありました。それで悩んだ末に内定を辞退するんですけど、いまいち吹っ切れることもできず順位は下がっていくばかりでした。そして何も巻き返しがないまま卒業してしまって。そんなときにラストチャンスとして「H&M DESIGN AWARD 2017」の案内を見つけ、卒業コレクションをベースに新たに服を作っていきました。

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—それで「H&M DESIGN AWARD 2017」では見事ショートリストにノミネートされたんだよね。それまでのスランプ時期の自分となにが変わったの?

学生時代は、周りの目を気にしすぎてましたね。一方「H&M DESIGN AWARD 2017」の時は目の前にするのは審査員なので、好き勝手自分の100%の力を出すしかない状況でした。デジタルポートフォリオを提出してから、1ヶ月後に第一次審査報告をメールで受け取って、いざプレゼンテーションの準備を万端にしてロンドンへ向かうんですけど、滞在時間はたった3日間だけでした。トランジット、設営、プレゼンテーションなど毎日が目まぐるしくて体力的にも精神的にもきつかったですね(笑)。

—そのコレクションのポートフォリオや服では、自然的なモチーフやムートンなどを用いて、18SSでは羊モチーフのジャガード生地が印象的だった。ブランドのコンセプトとして、牧歌的な自然が軸になっているように思う。

無意識的に自然をモチーフに使ってますね。それも先ほどの自由研究と同じで幼少期の体験が関わってきてます。地元・福島の自宅周辺の牧歌的な雰囲気だったり、父親が趣味で手入れしてた庭に寝っ転がったり遊んだ記憶などシンプルに僕のルーツを表すものです。

—ブランド名〈PERMINUTE〉も父親との幼少期の体験が関わってきている?

そうですね。父親の部屋にたくさん並べられていたものの中に、様々な計器があったことから単位にまつわる言葉を考えていました。そこに僕の服づくりの特徴であるトワル組みの速さを合わせて、時間単位に関係する言葉を選びました。トワル組みでは鮮度を保つために30分でドレーピング一体作って次のアイディアはまた30分間と時間を決めて完成させるようにしています。

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—トワル組みが速いという話が出たけど、いままで「ここのがっこう」から若手ブランドが出てきた中で、次の世代としていままでの卒業生と違う部分や自分の強みはなんだと思う?

1から最後まで服を作れることだと思います。可能な限り思いついたことを新鮮なうちにその場で作り上げられるようにしています。例えばクリストファーネメスが店舗で服をつくりあげてお客さんもその光景を見れるような空間づくりをしてたじゃないですか。そういうふうに僕も個人的な活動だったとしても、相手に伝わるような服づくりを目指しています。

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—ここのがっこうで一番印象的だった出来事は?

それこそ4年生でスランプに陥ってた時に、〈MIKIOSAKABE〉の坂部三樹郎さんに「土をテーマに服を作ってみたら」とアドバイスをいただいたことですね。最初は「?」だったんですけど、「土の持つ魅力について探ることだよ」と言われてから、これまでとは違ったギアでリサーチしてみるようになって。結果、宮沢賢治の書籍「春と修羅」の序文で語られる多様性についてが、自分にとってバクテリアや水分など様々なものの関わり合いから成り立っている土との共通項でした。同時に、人間の尺度では知覚できない壮大な生命性にロマンを感じたのです。手探りだらけの時期でしたが、そのような一見ファッションとは無関係そうなことをファッションに融合させる経験は、〈PERMINUTE〉らしさを築き上げるきっかけにもなったと思います。

—ファッションと関係なさそうなものを入れるには、相当自分の中でリサーチを重ねない限りつながりを発見できないよね。いつもリサーチを十分に行ってから服づくりを始めてる?

そうですね。かなりリサーチしてます。でもそれぞれは脈絡がなく集まった集合体で、とにかくまずは気になったものを集積しています。普段からそういうふうに何かコレクションするのも好きで、例えば古いファッション雑誌もよく集めていて、特に古い「Purple」から影響を受けることが多いです。一方で飽きっぽい性格なので、シーズンテーマは各コレクションで結構変わります。

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—18SSコレクションでは「fresh mornin’」というテーマのもと、故郷の郷愁感をコンセプトにショーを行ったそうだけど、リサーチする中で一番インスピレーションを受けたものは?

古いSFサスペンス映画の舞台でよく登場する何の変哲も無い田舎町の薄暗い感じがまさに地元にそっくりで気になったところからリサーチを始めました。

その中でも特に映画「インターステラー」に影響を受けたと思います。クライマックスのシーンで5次元空間に迷い込んでしまった宇宙飛行士の主人公の行き着く場所がかつて過ごした自宅の本棚の裏で、単なる懐かしさとは異質の独特なが表現が印象的でした。幼い頃真っ暗な炬燵の中に潜り込んで遠い宇宙に思いを馳せていたことを思い出して懐かしくなりましたね。肉体を離れ時間と空間を超えたところにある郷愁を捕まえる感覚でデザインしました。

—飽きっぽい性格である一方で、ブランドとしては一貫してどのようなクリエーションを目指してる?

日本の土壌を生かしたクリエーションをやりたいと思ってます。例えば西洋の地形や街並みは、伝統的に守られたマスターピースばかりが並んでますよね。一方日本は、もともと地盤が何枚ものプレートが重なってできた場所で建物もすぐに新しいものに変えられるように作られている。そういう場所でクリエーションをするなら、精神性としては西洋ではなく日本のそういう絶えず移り変わることをリスペクトしたものづくりができればと思います。

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—今後挑戦したいことは?

コレクションに明確な人間像を設けることをしてこなかったので、現代のワードローブと自分のやりたいことの距離感をこれまでより考えることに挑戦したいと考えています。また、日本以外のお客さんに見てもらえる機会があればぜひ参加したいです。

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半澤 慶樹
1992年福島県生まれ。2016年、17SSより〈PERMINUTE〉スタート。コンセプトは「カッティングとテキスタイルの双方からユニークな実験を通して、これまでにない新しいファッション性を提案する。
Photo:photomaker
Yoshiko Kurata

1991年生まれ。魚座。プロデューサー/コーディネーターとして百貨店・ファッションブランドと仕事をしているほか、雑誌「QUOTATION」などでライターとしても活動している。学生時代に夢中になったロンドンや東京のファッションから影響を受け、ファッション、カルチャー、フォトグラフィーなどを体系的に考えるのが好き。最近気になるブランドは、kotohayokozawa, perminute, SIRLOIN。
http://yoshiko03.tumblr.com/

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