上海拠点〈SIRLOIN〉に聞く、ローカルで着々と進化する中国のファッションシーン

上海拠点〈SIRLOIN〉に聞く、ローカルで着々と進化する中国のファッションシーン

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つい3〜4年前からロンドンファッションウィークでイギリス人だけではなく中国人のデザイナー名をよく聞くようになった。メンズファッションウィークでGQ Chinaによるスポンサープロジェクトが走り始めてから、ということもあるかもしれないが、Central Saint Martinsのメンズウェアに通う友人曰くクラスでも1/3は中国からの留学生だという。いまや世界の共通ツールとなっているインターネットでさえも国内独自の発達を遂げている中国本体からの情報は中々手に入れられないまま、ここ数年の異国の地で彼らの活躍を不思議に見守っていた。
その後異変に気づき始めたのは、1〜2年前くらいのこと。Instagramでもよく中国ブランドのアカウントが流れてくるようになった。Googleで検索しても出てこない実態がリアルでもネットでも詳細不明なまま流れてくる。だが、そこには確実に中国のファッションシーンが進化しつつあることが感じられた。
そのもどかしさを解消するには、おそらくそのムーブメントの中心で活動している人物に聞くのが手っ取り早いだろうと思い、上海拠点でファッションブランド〈SIRLOIN〉デザイナーを務める宇佐美麻緒さんに連絡を取った。Skype上で2時間にわたり、近年の中国のファッション事情や自身のバックグラウンド、〈SIRLOIN〉についてなどざっくばらんに話してくれた。

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—現在中国を拠点にブランド〈SIRLOIN〉の活動をしていますが、最近の中国ファッション事情・市場について教えてください。中国人の学生やファッションデザイナーを海外の大学やファッションウィークでよく見かけるようになりました。

ファッションデザイナーを目指す学生たちは、Central Saint MartinsやParsons School of Designなど海外の大学へ留学してます。最近になって、海外大学を卒業した学生たちが帰国後に留学したい学生のための予備校を都心部に沢山設立しています。教師のほとんどは現役の若手ファッションデザイナーなので、そこで生計を立てながら自身のファッションブランドの資金にしています。なので、授業料も予備校にしては高いですが、それでも何が何でも行きたいという学生も沢山いる状況です。

—海外で得た教育方法や知恵を国内に循環させているんですね。中国の工場も変わりつつあると聞きますが、実際どのような変化をみせているのでしょうか?

いままで中国の工場と言えば、ファストファッションや大量生産というイメージがあったと思うのですが、最近ファストファッションと中国の工場の価格が見合わなくなってから、デザイン性や高度技術、質に対して精度を上げようという姿勢に変わってきているように感じます。実際に海外留学を終えた若手デザイナー向けにコンペティションを設けて、そこから選抜された数名と手を組んで生産を手伝うプロジェクトも始まっています。ファッションに限らず、産業全体的に質が悪くても安ければ問題ないという従来の価値観が変わってきています。

—そのような時代に中国拠点のブランドとして活動していますが、元々は京都造形大学に1年間通ったのちにCentral Saint Martinsへ留学したんですよね。

幼い頃から将来はファッションデザイナーになりたいと決意していたので、高校卒業後にはCentral Saint Martinsへ行こうと思ってました。高校卒業時にファンデーションコースは受かっていたのですが日本のアートシーンも勉強すべきだと思い、まずは1年間京都造形に行きました。元々洋裁学校として創立した大学なので、服作りの基礎を学びながらも技術だけではなくアートやデザインの分野も触れることのできる多様性に富んだ環境でした。

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〈17AW CAMPAIGN〉

—母親が企業ファッションデザイナーだったことから、自身もファッションデザイナーを目指したそうですが、Central Saint Martins入学時には企業ではなく自身のブランドを立ち上げようと思っていたのでしょうか?

そうですね。幼い頃から自然と母親とファッション雑誌に載っているデザイナーの違いは感じて、デザイナーズブランドへの憧れを抱き続けてきました。もともとメンズウェアのディティールがとても好きなのですが、着用時にサイズが合わないという自身の体験からどうにか納得のいくウィメンズウェアを作れないかと思い、ウィメンズウェアを専攻しました。

—い〈SIRLOIN〉制作している下着にも同じような想いがあったそうですね。

クラスメイトとの会話の中で、ふと自分に合うブラがないという話が出てきたことがきっかけです。実際に卒業コレクションでも下着を何点か制作しています。でもまだその頃は〈SIRLOIN〉を立ち上げようとは思ってもなかったです。いま中国で一緒に活動している方が、卒業コレクションで声をかけてくださったことをきっかけに拠点を中国に移しました。

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〈17AW CAMPAIGN〉

ブランドを立ち上げる前に2年間程パリのメゾンで経験を積んだそうですね。その後、現在のパートナーとともに〈SIRLOIN〉を立ち上げようと決意したきっかけは?

パリで〈LOUIS VUITTON〉のデザイナーとして働いていました。パートナーは〈DRIES VAN NOTEN〉に入り、お互いに企業内でのデザイナーのポジション、マーケティングやファイナンシャル含めアトリエの仕組みなど、どのようにビジネスが動いているのか勉強した2年間でした。最初の方は、その期待値通りで学校で教わらなかったことだらけで面白かったのですが、次第に慣れてくるとコレクションすべての最終ジャッジを担うクリエイティブディレクターの承認をもらうためのデザインを制作するようになってきて。ファッションハウスで働く友達も次第に、シーズンを重ねるごとにルールを分かってきてしまって、学生時代に感じた彼らのクリエイティブさがどんどん失われているのを感じたんですよね。それは自分の写し鏡でもあるのかもしれないと思い始めて、同時期にパートナーも同じ状況に陥っていました。そうやってルーティーンワークを続けるより自分たちで1から挑戦してみたほうが面白いよねという話し合いから〈SIRLOIN〉を立ち上げることになりました。

—パートナーとお互い補ってる部分と共通していることを教えてください。

私は先ほど言ったようにディティールにこだわりを持ち、パートナーはドレーピングにこだわりを持っているのでブランドで作る服は良い意味で中間のものが生み出せているような気がします。共通点は、ミューズがいないところ。マーケティングとしては最悪だって言われるんですけど、理想のモデル像も特にいなくて、みんなに着てほしいと思います。

—ミューズがいない代わりにブランドの軸を担っているコンセプトを教えてください。

私たちのブランドコンセプトは「スチューピッドエレガンス」です。基本的に私たちのコレクション制作は、ヴィジュアルリサーチより時事問題や書籍を読んでそのストーリーからインスパイアを受けます。気になったストーリーについて2人で話し合ってそれに関連する写真やヴィジュアルを掘り起こしていくんです。ウィットに富んでいる面白い話が2人のワクワクする瞬間であり、それはイコール「スチューピッドエレガンス」でもあるので、そういう話題を見つけては書き起こしてシーズンごとのコンセプトにしています。

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—例えば18SSではどのような話題からインスピレーションを受けたのでしょうか?

日本語の「成金」を示す中国語「土豪(トゥーハオ)」が2013年頃に流行った時の出来事にインスパイアを受けました。例えば田舎の成金がデパートに行く時に、何故か8台くらいのおぼん付きロボットを連れて行ったというニュースがあって。おぼんにはそれぞれお財布、水、車のキーなどが載ってるんですよ。その動画が面白いし、全然日本の成金とは発想のレベルが違うなと思って。(笑)他にも、中国の魚市場に成金がきて急に蟹がかわいそうだからって5トンの蟹を全部買い占めて近くの川に放流するっていう心温まるニュースとかもあって。(笑)私としては面白かったんですけど、中国では放流した川の生態系が一気に壊れてしまうということで当時生物学者による深刻な議論が交わされていました。そういう成金の話から街で成金がどういうふうに歩いているか、服装をしているのか調べていきました。例えば田舎の成金は凄い派手なヴェルサーチのベルトを付けていたり、ほとんどの人が本物か偽物関係なくブランドを象徴するようなものを身につけていました。現代の中国の消費社会の仕組みを90年代のアメリカに照らし合わせた結果、パリと中国両方のプレゼンテーションの空間作りにも反映させました。

—パリと中国でのプレゼンテーションはどのようにストーリーを繋げましたか?

パリでは、成金発想で自分たちだけのスーパーモデルをメイドインチャイナで作ろうというコンセプトのもと全員モデルに同じ顔のマスクとカツラを被せました。最初は観客もすごい速さで同じがモデルが出てくることに驚いていて、BGMではアメリカンカルチャーに影響を受けた90年代のフレンチヒップホップを流していました。中国では、パリで登場したメイドインチャイナのスーパーモデルたちがマスクを脱いで中国のためのスペシャルランウェイを行うというストーリー仕立てにしました。BGMもそれに合わせて80〜90年代のアメリカのホームドラマの笑い声を流しました。

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プレゼンテーションの空間に置かれていた金色のダヴィデ像2体も成金的な発想ですよね。

そうです。成金のリサーチしている時に中国でたくさん実物の偽エッフェル塔があることに気がついて、海外では中国の偽物文化は悪いように言われているけど、もう既に悪口を超えた突き進んだ情熱があるように感じたんですよね。その突飛押しもない発想力から私たちも金色で偽ダヴィデ像を作っちゃおうと思って。そういう成金の周りに無頓着で自分の理想に向けての発想力と行動力がスチューピッドエレガンスに近いなと感じました。

—〈SIRLOIN〉以外にもいくつか若手ブランドにプレゼンテーションやショー発表の機会を提供しているプロジェクト「LABEL HOOD」のサポートについて教えて下さい。

会場の貸し出し、音響、照明、プロデュース、ヘアメイクなど全てのブランドに共通して必要なものは「LABEL HOOD」が提供してくれます。その他、モデルや空間デザインなどブランドごとで異なる部分は自分たちで手配しています。

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〈18SS LOOK〉

—生産のほとんどは自分たちの工場で行っているそうですね。

そうです。アトリエの上に工場があるので、常に確認しながら制作できる環境です。ヨーロッパで働いている時は、DHLの嵐にもまれながらパソコン上で制作する全てのものを管理していたので、デザイナーの仕事はほとんど管理職になっていました。もちろんそういうノウハウも必要ですが、デザイナーの仕事である手を動かす、考えることも大切にしたいと思っていまの環境を作りました。

 

—特に中国が得意とする生産分野を教えてください。

化学繊維全般、ダウンジャケット、スポーツウェア、ニット、アンダーウェアなど日常着は頻繁に新しいテクニックが開発されていますね。反対にテーラー、ミリタリー、ヴィンテージなどの技術はまだ不得意だと思います。

—ヨーロッパには慣れている分、初めの頃は中国のマーケットにも苦戦した部分はあるのでしょうか?

拠点を中国に移した最初の頃は、中国の市場を開拓するというより中国の工場や中国だからこそ作れるものを積極的に外に出していきたいと思っていました。中国にデザインチームも生産チームもいるけれども、国内外でも売ることを目標にしていました。ヨーロッパは長く住んでいたおかげでコネクションもありマーケットも想像できたのですが、中国は本当に右も左も分からず始めていきました。最初の頃は、私たちの服の価格でさえ高すぎると言われていたので、マーケット的にも厳しかったと思います。いまもパリでは普通の価格が中国では高い価格だと言われることもあります。それはまだ中国の富裕層がビッグネームに対して何も考えずに正しいという固定概念があるだけで、時期にインディペンデントブランドに対しても興味を持ってくれるはずだと思っています。

—今後の目標を教えてください。

パリでも中国で行っているようにショーを開催できると嬉しいです。また、メイドインチャイナでハイクオリティの服が作れたらと思います。いまちょうど産業全体的に安い大量生産からクオリティを高める方に向いてきているので、その時代に合わせて活動できていることも嬉しいです。

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SIRLOIN
上海ベースの新生ブランド。
共にセントラルセントマーチンズを首席で卒業した、日本人の宇佐美麻緒とスウェーデン人のAlve Lagercrantz(アルヴェ・ラガークランツ)が二人でクリエイティブディレクターを務める。
@sirloin_official

宇佐美麻緒
2013年、卒業コレクションで LVMH Grand Prix Scholarship と日本人初となる大賞、L’oreal Professional Younng Desigh Talentをダブルで受賞。卒業後はルイヴィトンにてデザインアシスタントを務める。
Alve Lagercrantz:2013年卒業コレクションでSally Woodward Awardを受賞。その後 Dries Van Notenにてウィメンズ、メンズ共にデザインアシスタントを務める。
2016年、拠点を上海に移し自身のレーべルSIRLOINを立ち上げる。 コンセプトは”Stupid Elegance”で、下着からアウターまでマッチできる文字通りのフルコレクションをパリと上海で発表している。

Yoshiko Kurata

1991年生まれ。魚座。プロデューサー/コーディネーターとして百貨店・ファッションブランドと仕事をしているほか、雑誌「QUOTATION」などでライターとしても活動している。学生時代に夢中になったロンドンや東京のファッションから影響を受け、ファッション、カルチャー、フォトグラフィーなどを体系的に考えるのが好き。最近気になるブランドは、kotohayokozawa, perminute, SIRLOIN。
http://yoshiko03.tumblr.com/