トム・フォード監督の『ノクターナル・アニマルズ』(16)やクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』(20)などに出演し、強烈な存在感と緻密な演技を持ち味にハリウッドでも売れっ子のイギリス人俳優、アーロン・テイラー=ジョンソンさん。伊坂幸太郎さんの小説『マリアビートル』を映画化した話題作『ブレット・トレイン』では、スタイリッシュな殺し屋タンジェリンを演じています。今作で初来日を果たしたアーロンさんに、役のイメージソースや、映画のテーマにちなんで「運命」についての考えを聞きました。
『ブレット・トレイン』アーロン・テイラー=ジョンソン来日インタビュー。「いい演技には情熱と愛と創造性がなくちゃ」

──先日、銀座の書店に原作小説『マリアビートル』の文庫本を買いに行ったら、見事に売り切れでした。映画『ブレット・トレイン』の注目度を感じました。
(こちらが持参した文庫本を手に取り)わぁ、これは君の? 小さなフォルムがクールだね。
──欧米の本よりも判型が小さいですよね。『ブレット・トレイン』は〈東京発・京都行〉の超高速列車を舞台にした、痛快なミステリー・アクション大作でした。ブラッド・ピットさん演じる主人公の、世界一運が悪い殺し屋レディバグのファイトスタイルのインスピレーション源は、ジャッキー・チェンやバスター・キートンだと聞いています。
映画自体、アクションにコミカルな要素が入り混じってる感じだから、かなりバスター・キートン的だよね。とりわけレディバグがそうなわけだけど。
──アーロンさんが演じた腕利きの殺し屋コンビの一人、タンジェリンにも何かそういうインスピレーション源はありましたか?
なんというか、ミックスされていて。これまで映画で観てきた、レジェンドな俳優たちからヒントをもらってるんだ。まず、ロバート・カーライル。彼のこと知ってるかな? 『トレインスポッティング』(96)で、主人公の友だちのベグビー役を演じていたりするんだけど。すごく痩せてるのに、筋骨たくましいんだよね。僕はタンジェリンを、アルコール依存症っぽいというか、キレやすく危なっかしい感じに見せたいと思って、かなり体重を落としたんだ。するとなんとなくロバートに似てくるんだよね。
──たしかにタンジェリンには予測不能で危険なムードがありました。
それと、イースト・ロンドンのテイストも加えたんだ。参考にしたのは、『SCUM/スカム』(79)でデビューしたレイ・ウィンストン。彼はイースト・ロンドンのウェストハム地区の辺りで育ち、熱狂的なウェストハム・ユナイテッドFCのサポーターとして有名で。だから今回タンジェリンを演じるにあたり、ウェストハム・ユナイテッドFCのエンブレムのタトゥーを入れたり、公式ソックスを履いたりしたね。あとイースト・ロンドンには、ベスナル・グリーンっていう有名ボクサーを何人も輩出している地区があって、レイも実はボクサー出身。そのこともタンジェリンのファイトスタイルに影響しているかな。
──今、衣装の話も少し出ましたが、タンジェリンはサグなイメージのあるイースト・ロンドン出身ながら、一流テーラーが立ち並ぶサヴィル・ロウのビスポークスーツを着ている設定ですね。
カリスマティックだけど、どこか成金っぽいんだよね。そういえば、脚本にもタンジェリンと相棒のレモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)はスーツを着ていると書いてあったから、デヴィッド(・リーチ監督)に「どうして?」と聞いてみたんだ。そうしたら「ビシッとキメた、プロフェッショナルな雰囲気にしたいから」というような答えが返ってきて。でも物語が進むにつれ、ネクタイをはずし、袖をまくり上げ、全身血まみれになり、ジャケットを脱ぎ……どんどん着崩れて、アンプロフェッショナルになっていく。衣装一つ取っても物語があるのがいいなって。
──ところで撮影はかなり即興的だったそうですね。
レモンを演じたブライアンとのセリフのやりとりは、ほぼ即興やアドリブで。これまで誰ともそんな芝居したことないよ(笑)。あと、ブラッドとのファイトシーンもそう。ある程度の振付はあったんだけど、それ以外の部分はデヴィッドの方針で、かなり自由にやれたんだ。食堂車のファイトシーンで言えば、僕がブラッドの目にワサビを押し込んだり、鼻の穴に箸を突っ込んだり。逆にブラッドはウニを投げつけてきて、それを本能的につかんだ僕の手に突き刺さる、みたいな(笑)。
──全体的に、激しいアクションなのに笑えました(笑)。
撮影中はとにかくあらゆる可能性を試したんだ。デヴィッドや編集者がポストプロダクションで楽しく遊ぶのに、十分な素材をそろえておければと思って。列車の外に放り出され、ものすごい風圧を受けながら中に戻ろうとするシーンの撮影なんかも、挑戦的で最高だったよ。超大型の送風機を使ってるんだ。
──この映画のテーマは「運命」です。アーロンさんは10歳の頃から子役として活動し、今では『スパイダーマン』シリーズの新スピンオフ『クレイヴン・ザ・ハンター』(2023年1月米国公開予定)で主役に抜擢されるなど活躍中ですが、運命をつかむために意識してきたことはありますか?
たしかにこの業界で働くには運も欠かせなくて、ツイていれば足を踏み入れるくらいはできるかもしれない。でもずっと留まり続けるには、プロ意識を持って一生懸命働き、成長していかなきゃいけなくて。いい演技をするには情熱と愛を持って、クリエイティブに生きていることが大切なんだ。
──一度チャンスをつかんだからといって、あぐらをかいているだけではダメだと。
それと同時に、“引き寄せ”についてもよく考えていて。4人の娘の父親となった今では、よりフォーカスするようにしてるんだ。なんでかといえば、大人になると、流れに身を任せてクリエイティブに生きることが難しくなりがちだから。夢を持つって大切なことだと思うんだよね。「自分には手が届かない」なんて、絶対に思っちゃいけない。夢がある時点で、それは自分の進むべき道に違いないんだ。心のままに生きようとすると苦労も多いかもしれないけど、熱意と時間とエネルギーを注げば、宇宙は少しずつでも道筋を示してくれるはず。子どもの頃からそう信じて、僕はここまでやってこれたんだ。
『ブレット・トレイン』
世界一運の悪い殺し屋レディバグが請けたミッション、それは東京発の超高速列車でブリーフケースを盗み、次の駅で降りること。簡単な仕事のはずが、次から次へと乗ってくる身に覚えのない殺し屋たちに命を狙われ、降りたくても降りられない。最悪な状況の中、列車は、世界最大の犯罪組織を率いる冷酷非道なホワイト・デスが待ち受ける終着点・京都へ。やがてつながる、レディバグと殺し屋たち10 人の過去、そして因縁。爆走する列車内で、物語の最後、明らかになる衝撃の真実とは――。
原作: 伊坂幸太郎『マリアビートル』(角川文庫刊)
監督: デヴィッド・リーチ
撮影: ザック・オルケウィッツ
出演: ブラッド・ピット、ジョーイ・キング、アーロン・テイラー=ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、アンドリュー・小路、真田広之、マイケル・シャノン、バッド・バニー(ベニート・A・マルティネス・オカシオ)、サンドラ・ブロック
配給: ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2022年/アメリカ/126分/原題: BULLET TRAIN
9月1日(木)全国の映画館で公開
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アーロン・テイラー=ジョンソン
1990年生まれ、イギリス出身。子役として少年の頃からTVや映画に出演していた。『シャンハイ・ナイト』(03)、『幻影師アイゼンハイム』(06)などの作品を経て、ジョン・レノン役を演じた『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』(09)、アクション・コメディ『キック・アス』(10)などの活躍で注目される。続編の『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』(13)のほか、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(14)、『GODZILLA ゴジラ』(14)、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』 (15)、『ノクターナル・アニマルズ』(16)、『TENET テネット』(20)と話題作に続々と出演している。2012年に『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』の監督だった24歳年上のサム・テイラー=ウッドと結婚。二人の間には子どもが二人生まれ、テイラー=ウッドには元々二人の子どもがいたため、現在4人の父親である。
Photo: Norihiko Okimura Text&Edit: Milli Kawaguchi