03 Jul 2020
長澤まさみの20年。堂々とした自分に見せるのに、虚勢を張る必要はないとわかった

デビューから20年、シリアスからコメディまで作品ごとにくるくると色を変え、女優業を全力で楽しんでいる。その姿が美しく光る、長澤まさみさん。実際の殺人事件から着想を得た最新出演作『MOTHER マザー』では、一筋縄ではいかない母親役を演じています。この役を通して感じたことや、日々大切にしている考え方について教えてくれました。こちらの問いかけに、真摯に向き合って答える様子は、「10代の頃はおしゃべりが苦手だった」と打ち明けたのが信じられないほど。お話ししていると思わずこちらの頬もゆるむ、明るい魅力の持ち主でした。
──長澤さんが今回演じられたシングルマザーの秋子は、母親、娘、恋人など自身が置かれた立場によって印象が変わる役柄でした。つかみどころのないキャラクターを、どのように捉えていましたか?
本能のままに生きている人なのかなと思ったので、撮影現場では、シーンごとの感情を大事にしていました。自分勝手な秋子を全部受け止めてくれていたのは、息子の周平(奥平大兼)と娘の冬華(浅田芭路)で。親子関係って、親が子どものお手本になっているばかりではなく、実は逆のこともあるんだなということを、演じながら感じましたね。
──確かに、秋子は子どもたちに甘えていますよね。
そうなんです。母親役はこれまでも何度か経験していますが、今作ほど最初から最後まで、母親として生きる作品は初めて。しかも一筋縄ではいかない女性を演じるわけで、当初は役作りに悩んでいました。そんなときに、たまたま事務所の先輩からヒントをもらったんです。「子どもにとって人生が初めてなのは当然だけど、母親だって育児をしたことがない。お互いに『親子』の初心者同士なんだよ」って。その何気ない言葉が大きな支えになりました。
──初めてタッグを組んだ大森立嗣監督の印象は?
パッションがある方で、演出は「考えるな、感じろ」というタイプだと伺っていました。ただ今回は個人的に、感覚先行で役作りを進めるのはどうなのか、論理的に組み立てていくほうがいいんじゃないかという葛藤があって。それで、撮影開始の直前まで悩んでいました。現場に入ったら、監督とはお互いすぐに歩み寄れたんですが、それでもずっと自問自答しながら演じていました。やっぱりどうしても、秋子の気持ちが理解できないという思いが自分の中にありましたから。
──子どもを育てることの責任について考えさせられました。
私自身、母が自分にとって人生のバイブルです。もちろん父のことも大切ですが、家で母と一緒にいる時間のほうが長かった分、彼女から受けた影響がアイデンティティになっているんですよね。おそらくその延長線上のかなり先に、秋子と周平の共依存的な関係性はあって。だから共感とまではいかないけれど、漠然とならわかる気がしました。
──母親からの影響は絶対的ですよね、よくも悪くも。
そうだと思います。でも最近はコロナ禍によってリモートワークが広まったから、父親も家にいることが増えたみたいですね。母子だけで完結しがちな家族のあり方も今後、変わっていくのかなぁと考えたりしました。
──長澤さんは今年でデビュー20年だそうですね。その間に何か、ご自身の中で変化を感じたことはありますか?
10代の頃に「もっと女優らしくしろ」と言われたことがあるんです。女優は夢を売る仕事だから、本心がどうであれ、いつも堂々とふるまうべきだ、と。ただ私は性格的に、自分を実際以上に見せるのが苦手で、どうしても「私なんてどうせ」という感情が出てきてしまって。それから大人になり、周囲の言葉に耳を傾けられるようになってからようやく、それらしくしなきゃと覚悟するようになったかな。
──そう思えるようになったのはなぜでしょう?
堂々とした自分に見せるのに、虚勢を張る必要はないとわかったからですかね。勉強を怠ることなく向上心を持って努力すれば、自ずと周りが実際以上の自分として見てくれるような気がするんです。頑張りは、必ず人に伝わるから。
──ご自身の経験からそう思えたんですね。
ええ。人との出会いも含め、仕事がもたらしてくれた経験を通して、そう感じることができました。自分にお芝居があることで、どんなときも救われてきた気がしますし、生活がより豊かになっているとも思います。
──年齢を重ねるたび、より楽しそうにお仕事をされている印象があります。
デビューした当時は、ものすごく人見知りだったんです。もうシャイすぎて、どうにもこうにも芸能界は合わないなと思っていました。この世界にいるのは自己表現が得意な方が大半で、みんなすごいなって。私はそういうタイプじゃない上に、まだ子どもだったので、まず人付き合いに慣れるまでにすごく時間がかかりましたね。20代の半ばまでかかったかな。
──人を信用できるようになったんでしょうね、きっと。
それはあるかも。本当に慎重派だったんですよ。人に興味があるし、好きなんだけど、コミュニケーションが上手じゃなくて。社交的な方がうらやましかったです。でも人付き合いって結局、自分の姿勢次第なんですよね。大人になると余計にそれを感じます。もっと素直にやればよかったのに、と昔の自分に言いたいです(笑)。
──そんな長澤さんが、最近気になる社会的なトピックはありますか?
女性が働くことについては、やっぱり他人事ではないので、いろいろ考えます。映画やドラマの現場でも最近は、男性より女性のスタッフさんのほうが多いんですよ。昔ならありえないことです。体力仕事が要る録音部や照明部にもいますし、もはや性差は関係ないというか。
──ご自身も働く女性として、結婚や出産のことはどう考えていますか?
人生計画って難しいですよね。女性でもキャリアを積めて、家庭を持つことだけが人生のゴールではなくなってきている時代だからこそ、一概に言えないというか。結婚も出産も相手がいて初めてできることで、タイミングもありますしね。
──最後に。魅力的な自分であり続けるために、意識していることはあります?
私の場合は、仕事を頑張ることかな。全力投球が自分には合っているみたいです。それは力任せにやるという意味ではなく、できる限りの準備をして丁寧に仕事と向き合うということ。一見当たり前なそれを、怠らずに続けています。大人になると自分のいい部分、駄目な部分がわかってきますよね。「自分の性格上、こういうふうにやったらうまくいく気がする」という直感に従って行動していれば、その誠実さが周りの目には、素敵に映るんじゃないかなと思います。
『MOTHER マザー』
監督:大森立嗣
脚本:大森立嗣/港岳彦
音楽:岩代太郎
出演:長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、木野花
配給:スターサンズ/KADOKAWA
7月3日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
ⓒ2020「MOTHER」製作委員会
mother2020.jp
長澤まさみ Masami Nagasawa
1987年6月3日生まれ、静岡県出身。近年の主な映画出演作は『海街diary』(15)、『アイアムアヒーロー』(16)、『追憶』(17)、『銀魂』(17)、『散歩する侵略者』(17)、『嘘を愛する女』(18)、『50回目のファーストキス』(18)、『銀魂2 掟は破るためにこそある』(18)、『マスカレード・ホテル』(19)、『キングダム』(19)、『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(19)など。公開待機作品として『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(7月23日公開)、『シン・ウルトラマン』(2021年公開予定)がある。
Photo: Reiko Toyama Stylist: Miyuki Uesugi Hair&Makeup: Minako Suzuki Text: Tomoko Ogawa Edit: Milli Kawaguchi
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