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マーマーマガジン編集長・服部みれいインタビュー。彼女が「お疲れさま」を言わない訳

マーマーマガジン編集長・服部みれいインタビュー。彼女が「お疲れさま」を言わない訳

「自分を大切にすることが、自然や人を大切にすることにつながる」をモットーに、サステイナブルなライフスタイルを提案し続けてきた『マーマーマガジン』(現『まぁまぁマガジン』)。同誌の編集長で文筆家の服部みれいさんは、2015年に東京から岐阜・美濃市へ、活動の拠点を移しました。田舎暮らしの面白みや、移住前から大切にし続けている仕事上の指針、また同地で書き上げたエッセイ集『わたしと霊性』のことなどお話を伺います。


2008年春、エコカルチャー&オーガニックライフスタイル誌として創刊した『マーマーマガジン』。オーガニックコットンや、フジコ・ヘミングさんのヴィンテージ中心なワードローブなどエシカルファッションを紹介する一方で、冷えとり健康法やアーユルヴェーダなどのホリスティックな知恵や、性や結婚など女性が気になるテーマに、ユニークに切り込む特集が人気を集めてきた。

その編集長で文筆家の服部みれいさんにとって、2010年代は変化、変化の連続だった。元々『マーマーマガジン』の発行元はアパレルメーカーだったが、2011年の震災をきっかけに円満に分かれ、自身の出版社エムエム・ブックスを東京・原宿で立ち上げ。そして2015年、生まれ育った岐阜・美濃市に活動の拠点を移し、自らも移住したのだ。

「世の中の女性たちはもうすでにしっかりしてきていたというか。ホリスティック医療やオルタナティブな知恵をベースにしたセルフケア、オーガニックな食べものや暮らし方、フェミニズムなどについて、わたしがことさら何か言わなくても、以前に比べてもうみんなよく知っているし、情報も得やすくなっている。自分が東京でできることでやり残したことはない、さらに自分が発信していることと自分たちの暮らしを合致させていこうと思ったときに、岐阜に引っ越しました」

ファッションビルが密集する人口22万人の渋谷区から、山と川と田んぼに囲まれた人口2万人の美濃市へ。スローライフを満喫しているのかと思いきやそうではなく、書き手として、また自社の編集者として、ますます仕事に励んでいるそう。2016年には『マーマーマガジン』を詩とインタビューの雑誌にリニューアルし、名前も大胆に『まぁまぁマガジン』に一新して読者を驚かせた。

服部みれい マーマーマガジン インタビュー

今年で移住して5年目だ。最近は自然栽培で田んぼを始め、自分たちで育てたお米も食べたという服部さんにとって「現段階では、もうフレッシュな(本や雑誌の)題材は、大都市には見つけられない」と話す。では今、編集者として書き手として、最も奮い立たされることとは?

「岐阜の山奥に暮らしている、おばあちゃんやおじいちゃんにインタビューを始めたんですよ。郷土料理や民謡のことから、夜這いのことまで。そこにはローカリティー(地域性)というのかな、日本の“近代以前”、もっといえば何か縄文的なフレーバーが残っているんです。でもそれをまだ、誰も言葉にしていない感じがして。
東京で暮らしていると、都市生活が普通と思いがちなんだけど、おばあちゃんおじいちゃんのお話を聞く中で、自分がいかに東京の視点でものごとを見ていたかということを思い知らされています。まだリサーチ段階なんですが、いずれ形にしたいですね。本というより、映像作品にするのもいいかも?とか、妄想中です。こう、いつも、あたらしい世界を見たい、実現させたいという思いがあって、古い縄文的なあり方に、未来を感じたり、そこに新鮮なヒントを求めるのが好きですね」

『マーマーマガジン』では、「冷えとりファッション」を大ヒットさせた服部さん。冷えとり健康法とは、靴下を「絹→綿→絹→綿」と4枚以上重ねて履くことなどで、頭寒足熱の状態を作り万病を治す方法のことだ。ストイックに見られがちなこの健康法を気軽に「やってみたい!」と思えるようにと、靴下を重ね履きしているのにファッショナブルなスタイリングを誌面で提案したところ、仕事や家事に追われ、慢性的な不調に悩んでいた現代女性たちを中心に大反響があった。

そんな「健康」と「ファッション」のように、一見相反するものの架け橋になりたいという思いは、かつて自分が暮らしていた「都市」と今住んでいる「田舎」についても同じだ。

「ときどき仕事で東京に来て、渋谷や代官山を歩いていると、『渋谷の真ん中に田んぼがあったり、ビルの屋上が全部畑になっていたり、街中に小川が流れていたりしたら、最高なのになぁ』っていつも思います。地球環境が信じられないほど危機状態にある今、都市が本当の意味でかっこよくて進んだ未来的な場所になるには、自然が本気でポイントになるんじゃないかと。
もちろん田舎は田舎で、カルチャー的な部分がもっと発展してるといいのかなというのもすごく思います。だから両者を近づけるというか、田舎と都会のいいところを融合して、今までに見たこともないようなあたらしい第三の場所が実現したらいいなというようなことをいつも考えています」

インターネットが発達した今の時代、究極を言えば、どこでだって生きたいように生きられる。服部さんはその実践者だ。移住後は、ピアノを習い直しはじめてバッハやバルトークをグランドピアノで練習したり、本格フランス料理を習ってみたり…。取材の少し前にも、ジャン・ルノワール監督の名作映画『ピクニック』のブルーレイを自宅に取り寄せて観て感激したそう。「田舎は何もなくて退屈」といった、世の中の“当たり前”に流されないインディーズスピリットは、彼女の本作りにも現れている。

「一つの雑誌を続けるって、どこかで飽きるんです。特に『マーマーマガジン』は、ほぼわたし一人で編集部だから。そういうわけで、自然に『フォーメン』(※2015年、男性向けに創刊された『マーマーマガジンフォーメン』のこと)を出したり、別冊を出したり、本誌もリニューアルしたりすることになって、続けている感じです。
『このページを埋めなきゃ』『なんか探さなきゃ』って焦ったりするのは何か違うと思っていて。インディペンデントな雑誌をやってるなら、せっかく一人で好きなように作れるんだから、自分が今最高にアツいと思うものを紹介し続けたいし、そういう自分でいられるように心身や環境を整えていたいなと思っています」

服部みれい マーマーマガジン インタビュー

雑誌ではないが、2019年秋に刊行されたエッセイ集『わたしと霊性』も、まさにアツいと思うことについて綴ったものだという。まえがきには、こんな言葉がある。「古い時代からあたらしい時代へ移行するこの真っ只中の時期に、ひとりの人間が、霊性をどう捉え、体感してきたかの実況中継的エッセイです」。

「霊的なことが好きなんですよね、趣味っていうか(笑)。この本を書くきっかけは、担当編集者さんが以前から『一緒に本を作りたいです』とアプローチしてくれていたことです。テーマとしては“現代における敬虔さ”について書いてほしいというリクエストでした。噛み砕いて言うと、“今の時代に気高く生きるには?”みたいなことを書いてほしいと考えてらしたと思うんですけど」

この本には、前述のようなエコロジカルな都市計画的想像から、前世や超能力について思うこと、亡くなったはずの祖父との交霊体験(!)まで、目に見えない力を巡っての壮大とも不思議ともとれる思索が綴られている。

「霊性っていうと、人によっては『オカルトじゃん』って思うかもしれないけど、わたしにとっては、この世界をより奥行きと広がりを持って捉えるための一つの見方なんです。たとえば誰かに失礼なことをされたときに、ただ怒るのではなく、『自分もひょっとしたら別の場所(たとえば前世)で、相手や誰かを傷つけた側だったかもしれない』とかって想像してみると、狭まっていた視野が一気に広がる感じがある。柔軟でいられるというか、相手だけが悪いとジャッジしないでいられるんです」

読んでみて特に印象的だったことの一つに、言葉遣いに関するティップスがある。服部さんは本当に疲れているとき以外、「お疲れさまです」と言わないようにしているそうなのだが、それは言葉と本心を一致させるためだという。

「別に疲れてないのに『お疲れさま』って、おかしいってスタッフに言われたことがあって。すぐにやめました。一語一語、思いや行為にきちんと合った言葉を発せているかどうかは、自分を大切にすることとつながっていると思います。
30代の頃、それこそ『GINZA』などのファッション誌でライターをしていたんですが、アイテムの撮影をしているときによく、その場に合わせて『可愛い〜!』って言っていました。でもあるときふと『なんか違うな』と思って、本当にそう感じたときだけ言うようにしたんです。そうしたら、地に足がついたんです。自分の主導権を握れたというか。もちろんわざわざ『可愛くないと思います』と伝える必要はなくて(笑)、そういうときは黙っていればいいわけで」

なるほど、と深くうなずいてしまった。何かと不穏なご時世で、なんだかいつも自信が持てなくて、漠然とした不安に悩まされている人もいるかもしれない。そういうとき、言葉という身近なところから自分を整えていこうという心がけはいいヒントになりそうだ。

「これまでは世の中のニーズを考えながら本を書いてきたけど、『わたしと霊性』は珍しく特定の読者を想定せず、好きに書いてみた感じで。年齢や性別にかかわらず、このテーマについて興味があれば、元々わたしの読者じゃなかったとしても、好きな方はいるかもしれないという気がしています」

2020年9月、4年ぶりの発行となる『まぁまぁマガジン』23号が発売された。大特集したのは、「宇宙マッサージ」が巷で話題沸騰のプリミ恥部さん。また1点ものの服や作品を制作するプロジェクト「FLANGER」のデザイナー・マキさんへのインタビューや、SSW・カネコアヤノさんの詩など、服部さんが今注目する面々が、ジャンルを問わず多数登場している。

作っている本人が楽しいから、読者はもっと楽しい。ポジティブなエネルギーが循環していくような本作りを続けている服部さんが目下、一番幸せを感じる瞬間は?

「やっぱり田舎の暮らしの、一瞬一瞬かなぁ。ちっちゃいことですけど、『小川が綺麗だな』『山が綺麗だな』と思うだけでもすごい感動するし。あと、空気がすっごくおいしい。あれはどうしてなんだろう、微生物が多いのかな。なんか多幸感があるんですよね。人間って本当は、空気を吸えてるだけで幸せなんだよねって思える。そんな自然溢れる環境で、自分の表現を深める喜びも大きいです。これからも岐阜に住み続けますし、なんなら人口2万人の美濃でもまだ、ちょっと都会だなぁみたいな(笑)。もっと、自然とともにある暮らしや、自分の表現をもっと深めたいなという欲求は高いですね」

服部みれい マーマーマガジン インタビュー

 

『わたしと霊性』
服部みれい著/平凡社/¥1,500

服部みれい マーマーマガジン インタビュー

目には見えないものが目に見えるものを超えていく時代に。今こそ読みたい霊性の実況中継!『マーマ―マガジン』編集長で文筆家の服部みれいが自身の原点を綴った、現代に暮らす若い人たちの未来を明るく照らすあたらしい随筆集。

『まぁまぁマガジン』23号
エムエム・ブックス/¥1,500

服部みれい マーマーマガジン インタビュー

各界から絶大な人気を集める、宇宙LOVEアーティスト・プリミ恥部を総力特集!他、ウィスット・ポンニミットの漫画、 更年期“衝動”について語り合う対談、「FLANGER」マキインタビュー、ジョナス・メカスやカネコアヤノらの詩など盛り沢山。表紙写真=川島小鳥。

服部みれい Mirei Hattori

岐阜県生まれ。文筆家、『マーマーマガジン』編集長、詩人。2015年春、岐阜・美濃市に編集部ごと移住し、8月にショップ「エムエム・ブックス みの」をオープン。近著に『わたしと霊性』(平凡社)、『みの日記』(扶桑社)など。毎日新聞「日曜くらぶ」にて連載中の「好きに食べたい」(9月末終了)が、年内書籍化予定。メルマガとして配信するラジオ「声のメルマガ 服部みれいのすきにいわせてッ」を月3回配信、特設サイトをnoteにてオープン。
◎公式HP hattorimirei.com
◎Instagram @millethattori
◎エムエム・ブックス murmurmagazine.com
◎声のメルマガ 服部みれいのすきにいわせてッ murmur-books-socks.com/?mode=f4

Photo: Kikuko Usuyama Text: Milli Kawaguchi

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