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歌舞伎役者・片岡千之助を解剖 vol.1|1600年代からのルーツを持つ家に生まれて

歌舞伎役者・片岡千之助を解剖 vol.1|1600年代からのルーツを持つ家に生まれて

梨園の名家に生まれ、3歳から歌舞伎道を歩む新鋭の役者だ。一方で大学にも通い、同世代の友達との時間やカラオケと映画鑑賞も楽しむ。さまざまな環境に身を置き、芸の糧にしていく。20歳を迎えた今、思うこと、これからを聞いてみた。#片岡千之助を解剖


 

1600年代からのルーツを
持つ家に生まれて

片岡家のはじまりは、元禄期(江戸時代)だ。上方で活躍した初代・仁左衛門は、敵役が十八番の名優であった。8代目は美貌の立役として、大阪・京都・江戸で一世を風靡した。祖父の15代目は風姿、口跡(セリフの言い方)、演技力の三拍子を備える希代のスターだ。そして父の孝太郎さんは、人気の女方である。華々しい歴史を継承、更新せねばならない家に生まれ、感じることは?

「看板に対するプレッシャーは、ないんですよ。それよりも、僕自身が役者として力を出し切れるかに尽きると思います。これまでとこれからの経験や感情のすべてを肥やしに演じていきたい。僕は、歌舞伎の舞台に立っているのが好きなんです」

2020年2月以降、9カ月ぶりに国立劇場で舞台に上がった『11月歌舞伎公演』では、時世に対応して新しい様式になった。ステイホーム期間を経て、役になりきる感想をたずねた。

「モチベーションに変わりはないですね。観客席は1つずつ間隔を空ける、演目の時間は短縮されました。物理的な面ではニューノーマルになっています。でも、役者やスタッフの熱意はこれまで通りですね。稽古の時に、再会して感覚がすぐに戻りました。強いて挙げるならば、大向う(客席からの掛け声)がNGなのは寂しいけど。そういえば、数日前に面白いことがあったんです」

善玉と悪玉の漁師がお面を被って、廓の恋模様などを織り込みテンポよく踊る演目『三社祭』にて、千之助さんは善玉の役を演じていた。

「ピークに差しかかるところで、一度、客席に背を向けて振り返るんです。正面を向いた瞬間に拍手とともに“松嶋屋ー!(片岡家の屋号)”って、聞こえて。こらえきれなくなった方が、口にしてくださったのかな?と、想像したら、うれしくてテンションが上がりました。いっそう力を込めて踊り切った後に、袖に戻ってスタッフさんに『さっき、大向うがありましたよね?』と確認したら『誰も言ってないです』と。えー!?って、びっくり。大向うの代わりにくださった目一杯の拍手にのせられた想いが、空耳となって、僕に届いたのかも。“心の声”が聞こえる体験に鳥肌が立ちました」

『三社祭』では中村鷹之資さんとの同級生コンビで、みずみずしい踊りを披露。ともに歌舞伎に生きる身として、彼の姿はどう映っているのだろう。

「鷹之資くんは踊り手として、すごくいい体型をしています。唯一の同い年でもあり、プライベートでも仲良し。いつも刺激を受ける存在です。彼のがっしりとした脚は舞台の上で迫力となって輝く。これはもう、神様からのギフトですよね。彼と同じ土俵に上がるのではなく、僕は別の部分を磨いています。常に、千之助の善玉を更新する。昨日よりも今日が良くて、明日はさらに進化している。そんな自分でありたい」

 

歌舞伎はエンタメと芸術の
二面性があるから面白い

歌舞伎は400余年前から芝居、踊り、音楽の三本柱で人々を魅了してきた。300本以上ある演目は大きく4つに分けられる。武家や公家の社会、平安、鎌倉、室町時代やそれ以前に起こったできごとを取り上げる「時代物」(代表作は『仮名手本忠臣蔵』『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』)。江戸で生きる人々の生活を描いた「世話物」、能や狂言を歌舞伎に取り入れた「松羽目物」、舞踊の要素が強い「所作事」がある。千之助さんを前にして大きな声では言いづらいけれど、昔の言葉で展開されるため、ハードルが高いのも事実だ。初心者が楽しむコツを聞いてみた。

「もう、それは超シンプルですよ。先にあらすじを読む。もし、知りたくない場合はイヤホンガイドがあります。進行に応じて、物語、配役、衣裳、道具について解説してくれます。また、格式が高いイメージがあるのであれば、その感覚を利用するのも手。おしゃれをして劇場に運ぶイベントにしてしまうなんて、どうでしょう? でも、やっぱり一番は役者のパワーを感じることですね」

 

「すべてがかっこいい」と
憧れの眼差しを向ける人とは

3歳から人前に立って研鑽を積んできた。そして、心からの負けず嫌いであると自己分析する。

「いつだって、ライバルは“僕”です。演目を終えるたびに芸を見つめ直し、内面にも潜ります。歌舞伎は型(演じ方)を祖父や父、師匠から教わります。修得した先に自分の色を添えていく。トライ&エラーの連続ですね。役者にゴールはないんですよね。先日、小学校1〜2年生の頃に出演した映像を観たんです。好き!楽しい!っていう感情があふれていた。無邪気で純粋な姿にハッとなりました。(今の)自分を超えていくためには、振り返ることも大事」

常に前を向き、高みを目指す。千之助さんのまっすぐなスタンスは、祖父で人間国宝の15代目・片岡仁左衛門さんの影響が大きい。

「過去の自分をアップデートしていきたいのは、祖父がそうだから。何度も同じ役を演じて、そのたびに絶賛をされても、翌日の舞台では調整を加えています。たとえ、それが、お客様に気づかれないような微々たることであっても。76歳となった今も、己の芸と戦い続けているんですよね。それって、本当にかっこいい」

尊敬する仁左衛門さんから教わったものは、数え切れない。なかでも礎となっている言葉がある。

「なによりも、気持ちが大事。極論は、(歌舞伎で大切とされる)型よりも心であると。その人物になりきって、想いを重ねる。もしくは、それに応じた自分を作っていくことです」

 

千之助の歩み

 

初めての連載

片岡千之助 かたおか・せんのすけ

2000年生まれ。2004年、初代片岡千之助として歌舞伎座にて初舞台を踏む。2020年秋〈パシャ ドゥ カルティエ〉のアチーバー就任でも話題に。

Photo: Masahiro Sambe(cover)、Kaori Ouchi (object)   Styling: Naomi Shimizu   Hair&Make-up: Hiroko Ishikawa   Text&Edit: Mako Matsuoka

GINZA2021年1月号掲載

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