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写真家・山谷佑介の横須賀につくる実家

写真家・山谷佑介の横須賀につくる実家

縁もゆかりもない土地で
そこに残る痕跡と暮らす

「どこかに定住する気なんて、これっぽっちもなかった」

それが、去年の緊急事態宣言下で仕事が止まって時間ができ、「ならば家でもつくろうかと、急に思い立ったんです」と振り返る写真家の山谷佑介さん。

見つけたのは横須賀の平屋。小さな門の先に100坪の敷地があり、築82年の3棟がコの字型に建っている。これを改装して住むことにした。この街は空き家が増えている。海近くの山肌に密集して住居が建てられていて、車では入っていけない長い坂道や、200段を超える階段もざら。人間が次々と住む場所を広げてきたかのような、どこか混沌とした空気がある。

「でも、それがいい。計画的ではない、きれいごとだけじゃない街。人が生きるということの現実がある。縁もゆかりもない土地に移ることにしたのは、この噓のない街並みに惹かれたからです」

住宅の前オーナーである恒見さん夫妻とは不動産屋を介して出会った。恒見さんは陸軍の宿舎だったこの3棟を買い、ここで子ども3人を育てたそうだ。初めて挨拶した日に、山谷さんが夫妻のポートレートを撮ってプレゼントすると、いたく喜ばれて交流が始まった。

「この間、恒見さん夫婦と僕ら家族とで集合写真を撮ったら、赤の他人なのに親子三代の記念写真に見えたんですよね。写真のつく巧妙な噓なのだけど、広く捉えたらこれも〝家族〟なのかもしれない」

今では工事の合間に、恒見さん宅で将棋を指す仲だ。知らない土地の中古住宅を買ったことで生まれた関係。

「それが面白い」と山谷さんは笑う。

家 玄関

山谷さんが改装設計を依頼したのは建築家の濱田智成さんだ。最初の打ち合わせは環七沿いのファミリーレストラン。相談があると連絡すると快く駆けつけてくれ、建築について、家について、さまざまな問いに数時間にわたって答えてくれた。その後も、施主のオーダーに真摯に向き合い、的確な提案を続けた濱田さん。紆余曲折を経て改修プランが決まったのは昨年夏。2棟は既存の躯体を生かした住居に、1棟は実験的に改修してアトリエにすることになった。

工事開始は昨年秋。山谷さんも連日作業に加わった。壊して明らかになったことも多い。コンクリートがカサ増しされていたり、剝がした壁の内に昔の五輪ポスターが見つかることもあった。

「僕が興味があるのはそういった物事の背景なんです。歴史に刻まれるような大そうな背景である必要はなくて、むしろ取るに足らないことに意味を感じる。そもそもこの家も歴史的価値のある建築ではないし、〝継承〟とか〝受け継ぐ〟といった大袈裟なことじゃなくて、あるものに手を加えて活用するのが、人が昔から繰り返してきたリアルな家作りだと思う」

だから、今回の改修では、残すものもあれば、壊すものもある。実際、庭の木をいくつか伐採したが、恒見さん夫婦が子どもが生まれた時に植えたという金木犀は残すことにした。

「僕も息子が生まれた時に住んでいた区から金木犀の木をもらったんですよね」

背景を知れば、無関係だった一本の木に自分との接点が見えることもある。

これまで持ち家を必要としなかった理由を「いつでも自由に動ける状態でいたかったから」と話してくれた山谷さん。

「でも今は考え方が変わって、戻れる場所があったほうが、自由でいられるのかもしれないと思っているんです。親がつくってくれた実家という場所があったから、安心して何処へでも行けていたんだと気づいたというか。それを、今度は自分の手でつくる。それがたまたま見ず知らずの土地だったというだけです」

工事初日の前日、取り壊す前の姿を写真に残そうと、一晩泊まった山谷さん。シミのある襖、使われなくなった台所。裏山から吹く風の心地よさは、前の住人も感じたものかもしれない。

 

横須賀の家の施工日記

11カ月と18日から選んだ
32日分の出来事

文・山谷佑介

山谷佑介 やまたに・ゆうすけ

1985年新潟県生まれ。主な写真集に、新婚旅行を撮った『RAMA LAMA DING DONG』、深夜の住宅地をテーマにした『Into the Light』、写真撮影とドラムパフォーマンスが融合したセルフポートレート『Doors』などがある。横須賀の家の工事の様子はインスタグラムで記録中。Instagram → @yusuke_yamatani

Photo: Yusuke Yamatani Text&Edit: Yuka Uchida

GINZA2021年7月号掲載

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