03 May 2022
藤田嗣治のパリ郊外の家 【お手本インテリアvol.1】

歴史に名を残したデザイナーやアーティストは快適な住まいを作る達人でもありました。限られたスペースを工夫して自分好みに整えた4人の部屋と家具をじっくり解剖します。
藤田嗣治のパリ郊外の家
1920年代からパリで活躍した画家のレオナール・フジタこと藤田嗣治。若い頃はモンパルナスのカフェでピカソやモディリアーニ、ヴァン・ドンゲンらと語らい、仮装パーティに興じたりドーヴィルの海で仲間と動画を撮ったり、まさに狂乱の時代を謳歌した画壇の寵児だった。そんな華やかな姿とにわかに結びつかないのが、晩年の7年間を暮らした、パリ郊外ヴィリエ=ル=バクル村の自宅兼アトリエだ。絵本『ちいさいおうち』に描かれる家とそっくりな、素朴な外観を持つ田舎家を、藤田は1年をかけて大改修し、細部に至るまで自分好みのインテリアに整えた。
Dining & Kitchen
1階はもともと酒蔵だったが、天井の太い梁を残し、大きな掃き出し窓をつけてダイニングキッチンに変えた。L字形のキッチン台にはミキサーや炊飯器が並べられ、鍋を壁にかけるフックや小さな棚は藤田の手作りだ。また壁の一部をデルフト風のブルー&ホワイトのタイル貼りにしている。いくつかは本物の古いタイルだが、多くは藤田が白いタイルにデルフト模様のシールを貼ったものだという。そのDIY精神がなんとも愛おしい。そしてテーブルクロスと、その上のギンガムチェックのふきんもお手製だ。スペインの古い木の扉やアイワンワークの飾りなど、古物を取り合わせて生活を楽しんでいる様子が伝わってくる。
Fireplace
階段下のスペースには暖炉があり、使わない時には藤田が絵を描いた板をカバーに。その絵は綱引きをする子どものシルエットで、藤田の温かい眼差しが感じられる。
画家として名声を得た藤田が、70歳を過ぎてもなお、日曜大工や裁縫を器用にこなし、伴侶との心地よい暮らしを作り上げていたことに胸を打たれる。快適な生活空間は、自分の手で創造するものなのだと教えてくれる。
藤田嗣治 ふじた・つぐはる
画家。1886年東京生まれ。1913年に渡仏、透明感のある画風でパリの画壇を席巻した。戦中戦後は日本に滞在したが、49年フランスに戻る。68年没。
Illustration: Ryuto Miyake Text&Edit: Mari Matsubara
GINZA2022年3月号掲載