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“美意識の背骨”を見つけたら暮らしも生き方も、迷いがなくなった。塩谷舞さんのサステイナブルな生活

“美意識の背骨”を見つけたら暮らしも生き方も、迷いがなくなった。塩谷舞さんのサステイナブルな生活

自分にとって今本当に大切なこと、必要なものを見極めながら過ごす。東京で、そして地方へ移住して、サステイナブルな生活を実践する人の話。


塩谷 舞
文筆家

軽やかに暮らすフィロソフィー 塩谷 舞

“美意識の背骨”を見つけたら
暮らしも生き方も、迷いがなくなった

ウェブライターとして活躍したのち、暮らしや生き方にまつわるエッセイを書く文筆家へと転身した塩谷舞さん。3年ほどニューヨーク近郊で暮らし、昨年帰国したが、東京生活を再開するにあたり頭を悩ませたことがあった。

「ニューヨークの隣のニュージャージー州に住んでいて、家は広々。それに合わせた家具をそろえたので、都内の単身者用マンションには到底入りません。どうしたって暮らしのサイズ感を転換しなければならなかったんです」

物理面だけならモノを減らすことで解決できる。が、塩谷さんは、「どのような部屋に暮らすか?」も腰を据えて向き合うことにした。

「ネットで都内の物件をリサーチしていたとき、日本の家は綺麗すぎると感じたんです。真っ白な壁紙が貼られて床もピカピカ。どの部屋も隅々まで明るくなるよう照明がつけられていて、全体的にツルッとした印象を受けました」

東京で生活していたときには気にも留めなかったこと。それに違和感を覚えたのは、アメリカでの暮らしを経験したことが大きかった。

「私が古い家を好んで選んでいたこともあるかもしれませんが、アメリカの家は間接照明が基本なので、自然と家の中に陰影ができて、それがいいなと思っていました。壁や床に傷があるのも普通で、それがひとつの味わいだし、家の個性だと感じていたんです。そうした一切が排除された東京の明るく、美しすぎる部屋に、どうしても物足りなさを感じて……」

「壁・床・光が、暮らす空間を決める三大要素」と言う塩谷さん。今の部屋は、それを満たした運命物件だった。

「床も壁もコンクリート打ちっぱなしのメゾネットで、玄関がある面は一面がガラス貼り。時間帯によって入る光が変化して、時々にコンクリートの壁や床に美しい陰影を作ります。カテゴリー的には“デザイナーズ物件”になると思いますが、過剰な装飾がなくて、なんと言うか、“スッピン”な感じがよくて」

ありのままであることを誇りに
北欧で知った、新しい美しさ

この“スッピン”という感覚は、近年、塩谷さんが大切にしているもののひとつだ。

「以前、コペンハーゲンを訪れたとき、北欧デザインの食器や雑貨を買いに行ったんです。カラフルでポップなデザインに胸躍らせつつも、ちょっと待てよと。それまでも北欧の日用品を買っていたのですが、お店でかわいいと思っても、いざ自分の部屋に持って帰ると全然なじまなかったんです。ずっと『なんでだろう?』と疑問に思っていたのですが、コペンハーゲンでその理由に気がついて……」

それは、自分のルーツとの解離だ。

「お店で、デンマーク人の女性が食器を選んでいる姿を見て、『この人だからこれらが暮らしに合うんだ』と思ったんです。日照時間が短く、どこか薄暗い環境だからこそ映えるパステルカラーの家々、人々の顔立ちや肌の色、着ているもの。そういう背景があるからこそ、そこで生まれたデザインが暮らしによりなじむ。それまでモノだけに向いていた視点に、土着的な文化や景観が加わったんです」

試しに、北欧の食器を持った手を見てみた。

「肌の色や骨格、とにかくあらゆる面で似合っていないんです(笑)。さらに自分の顔を鏡で見てみたら…。当たり前ですけど、モノだけ北欧風を選んでも、これじゃあなじむわけないと納得したんです」

では、自分にしっくりくるのはどういうものなのか。その答えは鏡の中にあった。

「私は東アジア人で、欧米的な美しさを求めてもかなわない。頑張って〇〇風であろうとせず、この“スッピン”を誇りに思って、自分なりの美しさに似合うものを選べばいい。それに気づいてから、迷いがなくなりました」

塩谷さんはそれを「美意識の背骨」と表現する。その背骨を中心に、今の暮らしを作った。

「家で使う器は土の質感を感じる陶器や漆などに自然と手が伸びるようになりました。自分の肌色になじむこと、陰影のある部屋にあってこそ美しさを放つことが大きいと思います。最近はマンションの明るい部屋にも違和感ないようにと、器や掛け軸なんかも白やパステルカラーの清涼感あるものが増えていますが、もったいないなぁと思ってしまいます。もともと日本固有の文化によって育まれてきた個性や魅力があったのに、それらが便利で均一的な暮らしに合わせるように変化していくことに、寂しさや違和感を覚えるんです」

自分だけの「美意識の背骨」は、次第にファッションやメイクにも表れるようになった。

「ただビューティ誌を真似るのではなく、私の顔立ちや肌色に合う色や形は何かを考えるようになりました。服も、着物のようなシルエットや、麻など昔ながらの素材が自分の身体になじんでくれる。そうやって選んでいくうちに、だんだん自分の顔や体型も好きになってきて、コンプレックスも減りました」

自分だけの美しさとは何か。暮らしもファッションも、しっくりくるものを選ぶには自分と向き合うことが欠かせない。部屋選びから始まった塩谷さんの思索は、自分を愛し、“スッピン”でも胸を張れる生き方を教えてくれた。

塩谷 舞 しおたに・まい

京都市立芸術大学卒業。会社勤務を経て2​015年からフリーライター、文筆家として活動。著書に『ここじゃない世界に行きたかった』(文藝春秋)がある。

 

Photo: Yuri Manabe Text: Yuriko Kobayashi

GINZA2022年3月号掲載

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