クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.97 岡山制作合宿。ニューアルバムについてのインタビューはこちら。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.98
中国、上海
vol.98 中国、上海
「アジアツアーがやりたいんです」本気で、でも長い目で実現させていけたらと会議室で放った言葉がこんなに早く現実味を帯びていくとは正直驚きだった。デビュー10周年を越え、これから先どんな風に音楽を届けていきたいか自分と対話していたタイミングで周囲の環境も大きく変わり、必然的に初めましての方とコミュニケーションする機会も増えた。思考を言語化する場に巡り合う度、自己が整理され、新しい発見があった。2023年は1年を通して定期的にステージに立っていたから、今考えていることがちゃんと来てくれている人に繋がっているか、届けられているか、届いているか、体感する場に恵まれたことも健やかだったと思う。ツアーだけではなく、私のライブを観たことない人に初めまして!と挨拶するフェスやイベントでも大きな学びがあった。そして、アジアツアーを実現させる第一歩として、2023年12月に初の海外公演を中国・上海で行ったのだけど。日本だとライブは歌を聞きに行くイメージがあるけれど、上海はバラードをみんなが大合唱するシーンがあったり、よりライブに「参加」する感じが面白かった。海外を知ることで、より日本についても知れたのも発見だったし、人の持つパワーに圧倒された。そして上海の夜景を目にした時、「あれ、私どこかで小さくまとまろうとしていたかも」って。自分の身の丈を勝手に自分で決めてしまわないこと。礼儀と相手を尊敬する気持ちを大事に、変にわきまえず。夢を見る勇気をずっと持ち続けようと、自分と約束した瞬間だった。
車で全国を巡るアコースティックツアーからはじまって、バンド編成での全国ツアー、そして2023年のワンマンの締めくくりが中国・上海だったことは、偶然じゃなくきっと必然。デビュー13年目に入っても、まだまだ知らないこと、分からないこと、はじめてなことがあって。それが私の生きるエネルギーになる。帰国してからの日本での活動の日々もより楽しい。世界って広い!と知るから、今ある場所をより大事にできる。外に出るから、家の有り難みも分かる。
思考と行動の両方があってはじめて前に進めること。その両輪のバランスがやっと取れ始め、迎えた2024年。2月には中国、深圳でのワンマンライブが決まっている。もっと遠くへ、もっと届けたい。もっとあなたへ、たった1人の君へ。
Text:Leo Ieiri Illustration:chii yasui