「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.104 わからない、程、良い。ニューアルバムについてのインタビューはこちら。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.105
野音の奇跡
vol.105 野音の奇跡
「週末天気良いらしいですよー」リハ終わりにそう呟くマネージャーである彼女の声は嬉しそうで。普段から天気予報を見る習慣があまりない私のことを知って伝えてくれているんだな、と喉をアイシングする為の氷嚢を受け取りながらちょっと大袈裟なくらい口角を上に引き上げた。根拠なんて何もないけれど、3月16日、17日。2日間にわたって東京、日比谷野外大音楽堂で開催するライブは絶対に晴れる気がしていた。なぜ?と聞かれると、なんとなく、としか言えないんだけど。
3月はライブのリハの合間に5月22日にリリースする新曲のレコーディングやマスタリング、MVとCDジャケットの撮影なんかも入っていて、気づいたら1日が終わっているような忙しなさで、夜になってマネージャーの彼女と「やっとご飯食べられるねー」「お腹空いたねー」と近くの美味しそうなお店を検索し、Googleマップで営業しているか確認して、お店に足を運ぶのに、はい、定休日。あっ灯りが落ちてますね、の連続で。更にそこから数十分歩き回っても良さげなお店と出合えず泣く泣く解散したり。ライブ前の我らには良くあることで、そのかわり?他の場面で運が味方してくれるのでまぁ良かろう、と二人三脚日々過ごしている訳ですが。今回も案の定、そんなことが続いていたので、週末のライブは絶対晴れだな、と思っていたのでした。
そして迎えた当日、5、6月の気温と書かれたネットニュースを斜め読みしながら、車の後部座席の窓を少しだけ開けた。晴天。ちょっと暑いくらい。運転してくださっているマネージャーの彼女もニットのカーディガンを助手席に置いている。だけど外に出ると風もあってきっと気持ちがいい。1日目は私のワンマンライブ。コーラスおふたりとバイオリンの方をお呼びして、日比谷スペシャル編成で久しぶりの曲をたっぷりとお届け。都会のオアシス、春の音楽会。来てくれた人を悲しみの雨から守れる大木のようでありたい。疲れた人が背中を預けたくなる幹でありたい。笑いかけられたら、葉と葉の隙間から顔を覗かせる木漏れ日の煌めきで応えたい。そんな願いから付けた「YAON ~SPRING TREE~」いつも以上に音の粒が細く来てくれた人に降り注いだライブになった。
2日目は中高の同級生、声優でありアーティストでもある麻倉ももちゃんとの2マンライブ。1曲目は私のギターの弾き語りでももちゃんと一緒にお届けした「君がくれた夏」。私とももちゃんは一見正反対。だけど違うからこそ惹かれ合って、自分にないものを持っているから尊敬も出来て、笑い合える。届けている音楽のスタイルも少し違うけど、知らないはじめてを知れることが楽しくて、自分の世界がぐんと広がってドキドキする!ライブに音楽に正解なんてないから、来てくれた人が心地良い自分でライブを楽しんでくれたら素敵だなって思った。だけどそれ以上の光景をみんなが私とももちゃんに見せてくれて。自分と違う価値観や生き方をしている人に出会ったら、無理して合わせたり、傷付くのが怖いからと相手を否定しちゃうのではなくって、ただケラケラと、わぁ!新しい!自分の世界にはなかった色だ!と面白がってみたらいい。やってみて自分にしっくりこなかったら、相手をハグして、自分の生き方も同じくらい大事にすると良い。最初戸惑っていたお互いのファンも、気づいたらひとつになっていて、お互いの違いを面白がりながら「希望の名前」に胸を馳せているのが最高だった。音楽って世代も性別も国も超えるって、改めてみんなが教えてくれた。ももちゃんとおばあちゃんになってもこうしてまたライブしたいね!ってステージで言った言葉。現実になるように私は今日も歌う。
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家入 レオ
Leo Ieiri
1994年生まれ、福岡県出身。17歳のメジャーデビュー以降、ドラマ主題歌やCMソングなどを多数担当。
2023年2月、約4年ぶりとなるアルバム『Naked』をリリース。12月には自身初の海外公演となる「LEO IEIRI Live in Shanghai」を中国・上海で開催。2024年2月には上海公演での反響を受け「LEO IEIRI Live in Shenzhen」を中国・深圳で開催。3月には日比谷野外大音楽堂にて2日間にわたって「家入レオ YAON ~SPRING TREE~」を開催。ジャンル・国内外問わず、幅広い活動を続けている。
Text:Leo Ieiri Illustration:chii yasui