「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.106 たまに道は後ろにある。ニューアルバムについてのインタビューはこちら。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.107
類はあなたを呼ぶ
vol.107 類はあなたを呼ぶ
風邪を引いた。いつもなら不調を感じた瞬間に酵素風呂や点滴に駆け込み、参鶏湯を食べ(ボーンブロス最強)プロポリスと蜂蜜で喉を殺菌し、1分でも早くベッドに潜り込み、発熱する前に体調を立て直すのだけど。
その日の夕方感じていた微かな違和感は帰宅後数時間でハッキリとした悪寒に変わっていた。身体の節々が軋み、これから熱が上がっていくことを予期させ、ため息とも唸り声ともつかぬ声を上げながら羽毛布団に包まる。マネージャーである彼女に体調が芳しくない旨を詫びながら連絡したはいいが…これからのスケジュールを思うと気が滅入り、うかうか休んでいられないぞ!と腕組みしている自分と、体も頭も心もずっと使い通しだったもんね、と心細そうな自分と。その心の声を聞き取っているうちに寝てしまっていた。
気が付くと辺りは暗く。道路を走る車のライトがカーテン越しに部屋を通り過ぎて行った。一度開けた目をゆっくりと閉じ、頭上のベッドフレームに置いているはずのスマホを手探りで探す。ケースが指に触れた時、自分の体温の高さに気づいて顔をしかめる。掴んだスマホを顔、というより片目に最大限近づけ液晶画面をタップすると、映し出されたのはいつもだったらまだ外にいる時刻。枕元にあった体温計を脇に挟む。ピピピッと小気味良い音が鳴り、現実離れした暗闇の中、ブルーの光に照らし出された「38.1℃」。頭を抱えながらマネージャーである彼女にまた連絡を入れると「リモートにできるところは調整してみます!とにかく寝てください!」と涙を流している絵文字。申し訳なさでいっぱいになりながら、また気づいたら眠りに落ちていた。熱が高すぎて、少し寝て、目が覚めて、の繰り返し。そうしているうちに熱は徐々に下がり。次の日、番組の方々には大変心苦しかったけれどリモートでラジオ出演させていただき。午後は大人しく床に伏せっていた。外は雨。ひと嵐去っていた私の中はとても静かで、突然「人生には上り調子と、下り調子がある。それは、会社でも、国でも、文化でもそうだ」「自分の人生がどちらに向かっているか、考えなさい。ブレーキを踏むときか、それとも、アクセルを踏むときなのか、それを見極めるのだ」と先日読んだ本の言葉が浮かび上がってきた。
あの日、飛行場に少し早く着いた私は何気なく立ち寄った本屋で、普段あまり手に取らないタイプの本を選び、そのままレジに持って行った。飛行機が滑走路をゆっくり進みはじめるのを感じながら習慣的に始めた読書。辺りが騒がしくなって本から顔を上げると機内サービスにCAの方が飲み物を配っていた。私は自分が離陸していたことにも気づかず、その本に夢中になっていたことを知ったのだった。
帰京してからも、この短期間に繰り返しその本ばかりを読んでいたせいなのだろうか。眠れずにぼーっと横になっていたベッド。体はまだ少し熱く、心は空っぽ。そこに思い出そうとした訳でもなく、浮かび上がってきた言葉。人生に起こった出来事や出会い、そこから何かを学び終えると、いつも決まって熱を出す自分。何かが新しく始まる前触れでもある。
この連載をはじめた頃、クオーターライフクライシスのど真ん中にいた自分。何処に行けばいいのか、何がしたいのか見失っていた。思考し行動すればするほど深みに嵌った。あの本の作者が言うところの「ブレーキを踏むとき」でもあったのだろう。そしてその期間私がするべきことは、正しく「迷うこと」だったのだろうな、とベッドの上で苦笑いした。答えを探し、本を読み音楽を聴き映画を観、話を聞き、対話する。知らないことを学ぶ。ではやっと答えが見つかったのですね?と今尋ねられても、どうだろう、と悪戯っぽく微笑みを返すことしかできないかもしれない。だって私が今していることは変わらず「本を読み音楽を聴き映画を観、話を聞き、対話し、知らないことを学ぶ」だから。それなのに胸のあたりがあたたかい。幸せなのだ。何故だかすごく。
ずっと自分に似合う洋服を探していた。私が着ていてもおかしくないもの。周りが納得するような、安心な自分。今少し変わった。自分に似合う洋服を探す、という最終的に目指すゴールは同じでも、心が踊っているか、ときめいているか。このハートがあるから、似合っているね!の言葉が嬉しくて、もっと頑張っちゃうような。得意なこと、と、好きなことを、もう一緒にしないように。熱を出して、たくさん汗をかいた。昨日までの私ありがとう。新しい私ハロー!
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家入 レオ
Leo Ieiri
1994年生まれ、福岡県出身。17歳のメジャーデビュー以降、ドラマ主題歌やCMソングなどを多数担当。
2023年2月、約4年ぶりとなるアルバム『Naked』をリリース。12月には自身初の海外公演となる「LEO IEIRI Live in Shanghai」を中国・上海で開催。2024年2月には上海公演での反響を受け「LEO IEIRI Live in Shenzhen」を中国・深圳で開催。3月には日比谷野外大音楽堂にて2日間にわたって「家入レオ YAON ~SPRING TREE~」を開催。ジャンル・国内外問わず、幅広い活動を続けている。
Text_Leo Ieiri Illustration_chii yasui