「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.107 類はあなたを呼ぶ。ニューアルバムについてのインタビューはこちら。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.108
伝える努力
vol.108 伝える努力
暦が6月に変わった頃、ニュースや雑誌、日常の何気ない会話の中で、2024年も上半期が終わり、下半期に向かうといった類の話題がぐっと増えた。実際自分もマネージャー、スタッフの方と打ち合わせをしている時やジムでの水分補給の時、タクシーの運転手の方とのちょっとした世間話の時など、「今年ももう半分終わったなんて、本当に日々があっという間ですよね」とその時期、下半期への感慨を天気の話の代わりみたいに口にしていた気がする。多分それは、自分なりの自己防衛、というか。
「ここまで忙しくなる予定じゃなかったんですけどね」と苦笑いするマネージャー氏のパソコン画面に映し出された当面のスケジュールを2人で覗き込んだ後、口角を上げれるだけ上げた笑顔で「ひゃ〜〜!」と奇声を発し机に突っ伏した。でも、だけど、どれもどうしてもやりたい仕事で。だったら頑張るしかない、と腹を決めた日々は文字通りあっという間でありながらも濃密で。もっとその1つ1つをゆっくり味わいたい気持ちと、このスピードだからこそ冴えている頭や磨かれている直感と。バランスって難しいなと移動の新幹線や帰りの電車やバスで物思いにふけるのであった。
だけど、諦めたくない。数年前に夢見た人との出会いや出来事を、吸収し感じ切りたい。締まりがなく生きていると気づいたら季節が変わっていた、なんてことになりかねない。もう1週間経った、気づいたら3月が終わった、下半期がやってくる!と例年以上に時間経過や季節の節目を口に出すことで意識付けし、充実した日々に生まれたアイディアや発見が昨日という過去に流れていってしまわぬ様生きたい。備忘録であり、今の自分の感性を停止させない為の自己防衛。
今年の12月に30歳になる私。19歳から20歳になった時、確かにお酒が飲めるようになって、選挙権を得たけれど。でも昨日の続きの今日でしかなかった。「いつか」と、夢見て我慢強く待つだけでは何も変わらない。時間は戻ってこない。今を、生きること。楽じゃないけど、楽しい!と思える「今」を大事にし行動すること。その瞬間を積み重ねることで未来は動いていくんじゃないかと思う。なるだけ楽しく笑顔でいたいけど、大切なものを大切にする為には、誠意を持って伝えなくてはいけないのかもしれない、と思うことも増えてきた。嫌われたくない。平和に過ごしたい。だけどみんなそれぞれの信念を持って生きている。話し合ったり、向き合ったりすることは時に怖かったり面倒に感じることもあるけれど。伝えてどうしても分かり合えなかった時は嫌われてもいい、と自分を鼓舞して真っ直ぐ生きていきたい。「なんでこんなこと言われなくちゃいけないんだろう」「そんな言い方しなくても」といじけた子どもだった自分。私がそう思うことを知っていながら、それでも伝えてくれた人たちのありがたみや、心が今改めて染みる。もうすぐ30歳。
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家入 レオ
Leo Ieiri
1994年生まれ、福岡県出身。17歳のメジャーデビュー以降、ドラマ主題歌やCMソングなどを多数担当。
2023年2月、約4年ぶりとなるアルバム『Naked』をリリース。12月には自身初の海外公演となる「LEO IEIRI Live in Shanghai」を中国・上海で開催。2024年2月には上海公演での反響を受け「LEO IEIRI Live in Shenzhen」を中国・深圳で開催。3月には日比谷野外大音楽堂にて2日間にわたって「家入レオ YAON ~SPRING TREE~」を開催。ジャンル・国内外問わず、幅広い活動を続けている。
Text_Leo Ieiri Illustration_chii yasui