「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.109 あの夏のあの感じ。ニューアルバムについてのインタビューはこちら。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.110
クッキー缶のプレゼント
vol.110 クッキー缶のプレゼント
今日もまた朝が来た。連日の猛暑。ひょっとしてここは日本ではなく東南アジアなのかもしれない、と本気で錯覚してしまいそうになる。先日も仕事を終え帰ろうとした矢先に、ピカッと空が光り始め、雨と雷の襲撃に呆然と立ち往生したばかり。
夜中もあまりの寝苦しさにタオルケットから身体を無意識に逃してしまう様で、そのままの格好で朝を迎えることが多かった最近。久しぶりに自分の首から下がお行儀よくタオルケットの下に収まっているのを見た気がして、眠る前にエアコンの設定温度を1度下げたことを、ぼんやりと思い出した。
天井を仰ぎ見たまま大きく伸びをし、ベッドのヘッドボードに置いてあるスマホを手に取る。液晶画面を軽くタップし機内モードを解除すると、忙しなくLINEの通知が表示された。あくびしながらトークルームを開くと1番上に福岡の友達の名前。珍しいな、とメッセージを開くと、先日私宛にちょっとしたものを送った旨。そしてその品物の取り扱い注意点は「直射日光は避けて」くらいだから通常は平気なんだけど、と丁重に前置きした後、この異常気象で万が一にも何かあったら不安なので一応連絡した、の心遣いと、泣きべそ絵文字。全てがあまりにも彼女らしくて、私は小さく笑って、今日も良い日になりそうだなと思った。
ベッドから起き上がり、カーテンを開けながら、昨夜のブルーライトはこれか!と思い当たった。帰宅した真っ暗なリビングで点滅していたインターホンのブルーライト。宅配BOXに荷物あり、のメッセージを確認しながら「私ネットで何か買ったっけなー」と心当たりがないままだったが、あれは友達からの贈り物だったのか!顔を洗い、歯磨きと鼻うがいを済ませ、サクッと宅配BOXへ。
朝の日差しが降り注ぐリビングでその箱を開けると、白の可愛いペーパークッションが敷き詰められており、クッキー缶が顔を覗かせている。そしてその上には手書きのメッセージカード。「仕事の合間によかったら食べてください」の文字。うわ〜!と思わず声が出て、気づいたら静かな部屋にシャッター音が響いていた。
彼女にすぐさまありがとうを伝えたい!嬉しい気持ちそのままに、写真とメッセージを送る。
何でもない日のプレゼント。すごく、嬉しい。当たり前に毎日みんな頑張っていて、だけど、みんな頑張っていることが当たり前になりすぎている。毎日、やることは、続けることは、変わらないのかもしれない。だけど、代わり映えのない毎日に彩りを加えることはできる。クッキー缶から、朝2枚、クッキーを選ぶ瞬間。いつもより、少し良い豆のコーヒーを淹れたり。
そして良いことないかなーと思ったら、他の誰かが笑顔になってくれることをしてみたり。そうするとその笑顔が自分の元まで必ずやってくる。あーその友達に会いたい。そう思った。
Text_Leo Ieiri Illustration_chii yasui