「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.110 クッキー缶のプレゼント。ニューアルバムについてのインタビューはこちら。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.111
『My name』リリース
vol.111 『My name』リリース
昨日10月2日に私の8枚目のアルバム『My name』がリリースされた。去年の2月15日にリリースした7枚目のアルバム『Naked』は、そのタイトルを直訳すると“裸の”。20代で経験した幸福の低迷期クウォーターライフクライシス。感情ジェットコースターに乗っているかの様な日々。その鮮明でビビッドな感情を言葉とメロディにする事で状況を整理できたし、そうする事で徐々に落ち着きを取り戻し、最後には深刻になりすぎていた自分をニヒルに面白がれたりする余裕も生まれてきて。あの時期の迷いや鬱屈とした何かを裸の心で歌った作品になった。
そして今作の『My name』。20歳の時に『20(twenty)』というアルバムをリリースしたこともあってか、プロモーション時に20代最後、30歳を迎える事を意識したか尋ねられる場面が多々あった。だけど、30歳を迎えるからという、分かりやすい年齢的節目より、アルバム『Naked』をリリースし、目の前の出来事や人の想いと丁寧に向かい合う日々の積み重ねにメッセージがあった。17歳で家入レオ、という名前でデビューした。家入は本名で、レオは歌を歌っていく為に付けてもらった名前だ。当時を振り返ると、“芸名”と“本名”で何らかの意識を切り替えていたように思うけれど、今自信を持って言えるのは、そのどちらもが私自身であるということ。本名の私が外の世界で笑っている自分だとすると、レオはそこで上手く処理しきれなかった感情や出来事を家に帰ってきて音楽にする自分の事を指すのだと思う。アルバム『Naked』は家入レオが心に着ていた洋服を脱ぎ捨て、裸の心で紡いだ作品。そんな作品を作れたからこそ、家入レオになる前の私のことを今度は迎えに行きたい、と思った。
アルバム『Naked』をリリースした頃、環境が大きく変わり、自分の意識も少しずつ新しくなった。テレビやラジオに出ている姿も素敵だけど、打ち合わせやご飯屋さんで喋ってる時の雰囲気の方が尚良いよ!そう言われて最初は戸惑ったけれど、自分がちゃんと自分で生きていると、言葉の他意を読まなくなった。褒められたら素直に嬉しいし、アドバイスを貰えたらちゃんと持ち帰れる。今は、本名でもレオでも、私は私だから、と思う。どちらの名前で呼ばれても心は一緒、というか。10代は経験がない分、自分の五感や六感で状況を見極めていく「感覚」で生きていたし、20代は、なりたい自分や現実を生きる為にとにかく「思考」していた。思い描いた事に挑戦してみて、自分とはフィットしないと学習したり。脳みそがいつも熱く、重かった。そしてやっと、ここ数年。良い意味で自分を諦める事ができて。それはネガティヴでも何でもなくて、古い友達を抱擁するような。私はどうやら私で生きていくしかなさそうですねぇ、という。ようやっと、30代は、自分で生きられるスタートラインに立てるような気がする。歳を重ねるほどに、無邪気に子どもの頃の自分に近づいていくように感じるのはどうしてでしょうか。そんな少女の自分を迎えに行くアルバム『My name』。そして私の曲を、あなたや君が聴いてくれた時。この曲は僕や私の為に作られた曲なのかもしれない、って。そんな風に思ってもらえる事がもしあったら、私はとても幸せです。聴いてくれている人の人生のサントラになりたい。私の歌が、あなただけの歌、になることをいつも夢見ています。だからこのアルバムは聴いてくれているあなたや君の名前がタイトルでもある。そんな想いを込めて『My name』というタイトルをつけました。繋がれますように。
Text_Leo Ieiri Illustration_chii yasui