銀座のランドマーク建築である「和光本店」地階に、リニューアルで生まれた空間。選りすぐりの文化を発信するための、このうえない“舞台”が登場しています。
銀座のランドマークにリニューアルで生まれた「和光 本店地階 アーツアンドカルチャー」
東京ケンチク物語 vol.67
和光 本店地階 アーツアンドカルチャー
Wako Basement Floor Arts&Culture

銀座の“ど真ん中”ともいえる銀座四丁目の交差点。その一角に立つ、クラシカルな建物の上に大きな時計塔を戴く「和光」は、誰もが思い浮かべる銀座の景色のひとつだ。前身の服部時計店が1881年に創業し、その13年後に初代時計塔が完成して以降、長く街を見守り続けてきた。その地階フロアが大規模な改装を行って、2024年7月に「アーツアンドカルチャー」としてリニューアルオープンして話題を呼んでいる。高級品専門店である「和光」の地階は、もともと、電動ミシンや蓄音機などその時代の最先端のテクノロジーや職人技が詰まった品をいち早く紹介する、アートや文化を発信していくフロアだったとか。今回のリニューアルは、フロア名が物語る通りに、その原点に立ち返る試みだ。そんな大切な空間の設計を託されたのは新素材研究所。杉本博司と榊田倫之による建築設計事務所で、古代や中世、近世に用いられた素材や技法を仔細に研究し、それらを現代に再解釈・再興していく手腕が知られる彼らが、ここでもその個性を大いに発揮している。
広々としたフロアは、催事などを行う中央の“舞台”の周囲に、ぐるりと“回廊”を巡らせ、さらにその外側に小ぶりの空間が連なっていく構成。スペース同士を緩やかに区切る木格子などにたっぷりと使われた秋田杉の、さわやかで優しい香りがフロアに立ち込める。ディテールのひとつに至るまで、素材や仕上げの技にこだわり尽くした場だが、なかでも、かつて京都の町家の舗装などに使われていたという石を敷き詰めた“舞台”の中央に置かれた巨大什器は見もの。樹齢1000年を超える霧島杉の細長い天板が2枚重なっていて、中心を軸に回転する。そのさまが時計のようで、建物屋上の時計塔と対をなす存在といえよう。天板を回すことで扱うアイテムに合わせた空間づくりを可能にする、フレキシブルな“舞台装置”ともいえる。店内にはそのほかにも、貴重な石や古材、和紙などがふんだんに使われる。隅々まで美意識の行き届いた、身を置くだけで背筋の伸びる場所。だからこそ、「和光」が国内外から選びぬいて紹介するアイテムたちの個性を、最上に輝かせて見せてくれるのだ。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto