南アジアにルーツを持つ、シャララジマさん。見た目で容易に規定されることなく、ボーダレスな存在でありたいと、髪を金髪に染め、カラーコンタクトをつけてモデル活動をしている。“常識”を鵜呑みにしない彼女のアンテナにひっかかった日々のあれこれをつづった連載エッセイ。
前回記事▶︎「vol.16 リアルなアイランドとiPhoneに映る情景」はこちら
シャラ ラジマ「オフレコの物語」vol.17
南アジアにルーツを持つ、シャララジマさん。見た目で容易に規定されることなく、ボーダレスな存在でありたいと、髪を金髪に染め、カラーコンタクトをつけてモデル活動をしている。“常識”を鵜呑みにしない彼女のアンテナにひっかかった日々のあれこれをつづった連載エッセイ。
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わたしの肌はいま、人類最前線にいる。生物的にはインド系の種族となるこの褐色の肌が、これだけの年数、かなりの頻度で温泉に入るということが実現しているのは、現文明の中で初めてのことなんじゃないかと、事を大きく捉えている。遠い地域の人種がグローバリズムによって日本という地域で交差した影響によってやっと可能になっているんじゃないかと思っている。そういう意味で、わたしの肌は「インド系の人間が温泉に入り続けてたらどのような美肌効果を得るのか?」という研究の最前線にいる唯一の人物であると言っても過言ではないと、そう信じている。いつか論文みたいにまとめることが叶うならば書いてみたい!ちなみにわたしは生まれが広島でして、それについても、90年代、ニッポンの広島という括りでは、当時生まれた唯一の南アジア系なのではないか?と自意識過剰気味に確信を持っている。大学の卒論でそのことを調べ上げて証明しようかと考えた案もあったが、生まれてこのかた全てギリギリなわたくしには不可能な事だった。そんな時代の交差と組み合わせの妙によって生まれた事象。それが私の最大の特徴だ。私はそんな一つ一つの出来事と事実をやたらと額縁に入れたり、素敵な箱に入れて心の棚にしまって置いておく趣味がある。
温泉が好き、心の底から。温泉って地殻変動によって閉じ込められた海水がマントルによって温められて、時代を超えて湧き上がってくる水。つまりは古代の海水で、古代海水と地層と共に閉じ込められたロマンが現代に湧き出て私たちを治癒してくれるという奇跡。私はいつも制御できないほどの溢れる考え事で、常に身も心もガッチガチだ。南国の遺伝子で作られた、熱放射に長けた身体にも関わらず寒い国で育ってしまっている。冬真っ只中のこの時期には気がついたら全身に力が入って、寒さに耐えようと思わずいかり肩になって、常に緊張状態のようになってしまう。温泉はそんな私の南国の遺伝子と、冬のある国の環境因子でサンドイッチされたハードモードな身体にも馴染んでくれる。じんわり染み込んで、芯からほぐしてくれる唯一の存在だ。温泉熱は年々高まる。
秋田では東北地方で有名な乳頭温泉郷というところに行った。あまりに素晴らしく、気がつけば4時間ほど湯に浸かってしまったため、もはや親しみをこめて、ちちあたまと呼びたいところだが一応やめておく。友人Sと行ったこの温泉旅行、東北初心者の私たちは舐めていた。偶然にも乳頭温泉に行ったその日に初雪が降っておののく。銀世界の山道を運転しながらたどり着いたのは山の一番奥の鶴の湯という場所だった。ネットでググると乳頭温泉郷の写真の中でひときわ目を惹く、巨大な白濁色の露天風呂がある。まるで湯気たちのぼるホットミルクのお風呂に入っているような景色が強烈に興味をそそる。あまい初雪の響きを超えてもはや吹雪いてる中、険しい山道を超えやっとの思いでたどり着いた温泉はなんとまだお湯の入れ替えの途中だった。激へこみする友人Sと私のギャル二人を、雪国のおじいちゃんたちはみかねて、まだ溜まりきってないですが入っても良いですよ〜とまさかの施しを。完全に神が微笑んでくれた。明るい銀世界の中、入る温泉は別格だった。冬が繁忙期の東北の温泉、運良く雪降って一面真っ白な景色を見るのも初めてだった。乳白色の湯は光に反射して青白かった。アイスランドの有名なブルーラグーンを思わせるほどの青さにたちのぼる湯気、そして一面の銀世界に空は夕陽が沈みかけて茜色のグラデーションが広がっていた。目に焼きつけるしかない女体込みの美しいこの景色は、写真時代のいまでも誰にも共有できないことに少しの残念さとありがたみさえ覚える。
夕暮れの空模様の移り変わりが綺麗だったのもあるし、お湯が完全に溜まるまで縁に腰かけたり、肩まで浸かったりを繰り返していたらあっという間に日も暮れた。ほどよいぬるま湯に浸かり、寒さにてキリリとする温冷浴。ほぼ4時間、私たち二人が一番長く入っていたように思う。浸かっては出てゆくおばあちゃまたちに、混浴のほう入った?と話しかけられながらお風呂の中で知らない人とゴシップする。不思議なことにあんなに長く浸かっていたのに、手はそんなにしわしわにならなかった。奥の方からあたたまった、温泉たまごの匂い漂わすギャルのできあがりだ。
Photo&Text_Sharar Lazima