歴史と文化の厚みは東京屈指ともいえる文京区音羽エリアに建つ、有名政治家の邸宅。日本ならではのクラシックが息づく一軒が大切に保存・運営されています。
日本ならではのクラシックが息づく一軒「鳩山会館」
東京ケンチク物語 No.77
鳩山会館
Hatoyama Hall

都心の一角ながら緑深く、歴史ある名門校も点在するなど、都内屈指のお屋敷街でもある文京区音羽。格調高いこのエリアを代表するような一軒が音羽通り沿いにある。通りから門を入ると現れる急な坂道。徒歩では少し息切れするほどの傾斜の先に建つ「鳩山会館」だ。その名前から推察できる通り、戦後の日本が今の礎を築く時期に内閣総理大臣を務めた鳩山一郎が建てた家。鳩山家は和夫(1856〜1911年)、一郎(1883〜1959年)、威一郎(1918〜1993年)、由紀夫(1947年〜)、邦夫(1948〜2016年)と、代々、国の政治を担ってきた政治家一家だ。一郎と由紀夫は内閣総理大臣を、威一郎は外務大臣を務めたほどだから、その影響力は計り知れない。
起伏のある約2000坪に及ぶ広大な敷地に、鳩山家の自邸が完成したのは関東大震災の翌年の1924年。設計を託されたのは、一郎の知己でもあった建築家・岡田信一郎だ。都内に現存する建築作品としてはほかに丸の内に建つ「明治生命館」などがある。生まれつき体が弱く、海外に出たことはなかったというが、建築雑誌などを熟読して近代建築を追いかけ、ヨーロッパの様式建築でも優れた手腕を発揮した人物だ。
こちらでも岡田の力量は十二分に発揮されていて、地上3階、地下1階(一般公開は地上1・2階のみ)からなる建物は、レンガや石を貼り上げたベージュの壁に、白枠のアーチ窓や格子窓が美しいイギリス風の外観。エントランスを入ると、第一応接間と第二応接間、食堂などがつながっていく。インテリアのデザインも、淡い色彩や繊細な装飾が優雅な、イギリス発のアダム様式なのだが、どこか日本の空間に近い感覚があるのが面白い。ヨーロッパ建築のように厚い扉や壁で区切ることなく各部屋がつながっていたり、和室の欄間に当たる部分に部屋のテーマに合うモチーフをあしらったステンドグラスがはめ込まれていたり。温室を通じて庭に直接開かれている点も、日本らしい空間構成だ。洋と和が見事に折衷したこの部屋で、一郎の総理大臣時代には多くの重要な邂逅もあったという。国が歩いてきた歴史の音がするような一軒だ。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto
