バカリズム脚本、安藤サクラ主演の『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ日曜よる10時半〜)が話題を呼んでいます。1話で事故死した主人公が、もういちど人間に生まれ変わるべく、徳を積みながら人生を何度も繰り返すというドラマの6話までを、お笑いとドラマを愛するライター・釣木文恵、イラストレーター・まつもとりえこが振り返ります。
考察『ブラッシュアップライフ』は脚本家・バカリズムの集大成?初脚本作から紐解く
バカリズム初脚本作を思い起こさせる
「もう一度人生をやり直せたら」。誰もが一度は思うことをドラマにした『ブラッシュアップライフ』。主人公の近藤麻美(安藤サクラ)が事故で死んでしまったあと、次回も人間に生まれ直すために人生をやり直して徳を積む、というストーリーだ。
バカリズムが脚本を手掛けているこのドラマ、設定を聞いただけで思い出す作品がある。2012年、彼が初めて書いたドラマ脚本である『世にも奇妙な物語 2012年秋の特別編』(フジテレビ)の「来世不動産」だ。高橋克実演じる男が病気で亡くなり、不動産会社にたどりつく。そこでは前世の行い一つひとつがポイント換算され、その合計ポイントで来世に自分の魂が宿る「物件」を選ぶことができる、というもの。この不動産屋をバカリズムが自ら演じ、来世として牛や伊勢海老などを紹介していく。
『ブラッシュアップライフ』は、大筋の設定をこの作品から受け継いでいる。1話で事故で亡くなった麻美は真っ白な空間にたどりつき、“死後案内所”の受付係(バカリズム)から来世はグァテマラ南東部のオオアリクイと告げられるのだ。ちなみに2度目の人生では来世はインド太平洋のニジョウサバ、3度目は北海道のムラサキウニ。毎回の人生でうまく徳が積めているのか、人間に少しでも近づいているのか、ぜんぜんわからないところが絶妙だ。また、2回目、3回目の人生で「あのときここでこうしていたら」と人生を選択していくさまは、同じくバカリズム脚本のドラマ『素敵な選TAXI』(関西テレビ)を思い起こさせる。
さらにもうひとつ、このドラマを見ていると思い出すバカリズム脚本作品がある。
『架空OL日記』を思い起こさせる会話のテンション
麻美は1話の途中で死んでしまうけれど、そこまでの人生で交わされる家族と、あるいは親友、門倉夏希=なっち(夏帆)、米川美穂=みーぽん(木南晴夏)との会話がとてつもなく日常だ。慣れ親しんだ間柄の人と交わされている会話の話題とノリとテンション。この感じ、バカリズムが脚本だけでなく主演もした『架空OL日記』(読売テレビ)で光っていたところ。ドラマだけでなく映画にもなったこの作品は、放送こそ前述した他のドラマよりも後だけれど、元となったブログはなんと2006年から書かれていた。2006年といえば、バカリズムがコンビを解散し、ピンとして活動するようになった翌年。今のように活躍するはるか昔。その頃から、OLになりきった日常を綴っていたのだ。彼の原点ともいうべき、日常のちょっとしたできごとのおかしみが『架空OL日記』からこの『ブラッシュアップライフ』に濃く受け継がれているように思う。そういえば、なっちを演じる夏帆は、『架空OL日記』でもバカリズムの仲のいい同僚役だった!
1話を見はじめたときには、そのどこまでもよくありそうな感じに圧倒されていた。そして1話の後半からは、そのなんでもないような会話がすべて2度目の人生に影響してくる気持ちよさに、すっかり夢中になってしまった。
たとえば2回目の人生で保育園時代の麻美(永尾柚乃)が徳を積むべく奔走する洋子先生(中田クルミ)と玲奈ちゃんのお父さん(勢登健雄)の不倫騒動。1回目の人生ではこの二人が不倫をしてしまったせいで、玲奈ちゃんの両親は離婚、洋子先生はクビ、玲奈ちゃんと小学校が離れてしまう。それを防ごうとした麻美にとって、1回目の人生でなっちやみーぽんと交わした公園の公衆電話の存在、3人で行ったカラオケで「ポケベルが鳴らなくて」をきっかけに知ったポケベルの打ち方、妹・遥(志田未来)と何気なく交わしたお父さん(田中直樹)の小銭のありか、すべてが生きてくる。
さらに、ここで不倫を潰しておいたことがあとあと玲奈(黒木華)の不倫を潰すことにもつながってくる。にしても、自分がはからずも不倫していると知った玲奈の吹っ切れぶりよ。即電話で交際相手の宮岡(野間口徹)にブチギレた直後、「恋のメガラバ」を歌って発散する玲奈は、黒木華史上最高のカッコよさだった。そうそう、2度目で潰した玲奈の不倫を、3回目も忘れず潰すために麻美がただひたすら夢庵で食べつづけるシーン(5話)も妙に面白い。
3回目の人生でメタ構造に突入!
2回目の人生での薬剤師を経て、3回目に麻美はテレビドラマのプロデューサーとしての人生を選ぶ。
2回目の人生で「絶対塚地が出てくるんだよ〜」と呑気に見ていたドラマに携わり、2回目同様嫌いな先生(鈴木浩介)を助けるために撮影を巻きに巻いたり、2回目に「音楽を目指している友人を止めることが徳につながるかどうか」と迷っていた福田俊介=福ちゃん(染谷将太)をエキストラとして使ったり。そもそも、2回目の死因は「ドラマ撮影をしていた前野朋哉(前野朋哉)を見ようとよそ見していたことによる事故」だ。
この3回目の人生で、ドラマはメタ構造になっていく。
麻美は自分の人生を題材にした『ブラッシュアップライフ』というドラマをプロデューサーとして手掛けることに。番手についてかつての同級生でありメイクのごんちゃん=丸山美佐(野呂佳代)に愚痴っているシーンを見ると「果たしてこのドラマ(ドラマ内ドラマのほうじゃなくて、いま実際に放送されている『ブラッシュアップライフ』のほう)の番手はどうやって決まったのかな……」と思いを馳せてしまう。
臼田あさ美(臼田あさ美)演じるドラマ内ドラマ『ブラッシュアップライフ』の主人公は、麻美(そういえば同じ名前だ!)とはかけ離れた、ずいぶんスケールの大きなことをやっているっぽい。こちらは銃で撃ったり撃たれたり、黒幕がどうこう、みたいな話になっている。
3度の人生で、不倫を阻止したり、痴漢の誤認逮捕を止めたり、おじいちゃんの薬の飲み合わせを指摘したり、麻美は身の回りのことに関わり、徳を積んできた。けれど、それはドラマにもならないような、脚本家や監督からは「内容が地味」と言われてしまうようなできごとだ。果たしてこれは「徳を積む」につながっているのか、そのことさえも明らかにされていない。
4度目の人生で、麻美は「莫大な徳」をめざして、勉強に邁進する。結果、これまで3度の人生で親友だったなっちやみーぽんとも距離ができてしまった(シール交換のレートが親友だった頃と違って「気を遣わせた」と思うところがすごい!)。
「来世不動産」では、「電車の網棚に新聞を置いたまま」「アリを踏む」「傘立てで自分のボロボロのビニール傘をきれいなものと替えた」などの要素が、徳をマイナスにしていた。『ブラッシュアップライフ』での徳は、いったいどんなことなのだろう。麻美の4度目の人生は、これまでとは大きく変わるのだろうか。
脚本:バカリズム
演出:水野格、狩山俊輔
出演:安藤サクラ、夏帆、木南晴夏 他 チーフプロデューサー:三上絵里子
音楽:fox capture plan
🗣️
Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
twitter
🗣️
Illustrator まつもとりえこ
イラストレーター。『朝日新聞telling,』『QJWeb』などでドラマ、バラエティなどテレビ番組のイラストレビューを執筆。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
twitter