独身主義の幸太郎(阿部サダヲ)とミステリアスな女性・ネルラ(松たか子)の結婚から始まる謎めいた生活。先週7月17日にスタートしたドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日毎週木曜よる9時〜)を「物語」を愛するライター・青島せとかとイラストレーター・まつもとりえこが振り返ります。
*レビューはネタバレを含みます。
夫婦の真実はどこに?この位牌の人物はいったい誰?

独身主義の幸太郎(阿部サダヲ)とミステリアスな女性・ネルラ(松たか子)の結婚から始まる謎めいた生活。先週7月17日にスタートしたドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日毎週木曜よる9時〜)を「物語」を愛するライター・青島せとかとイラストレーター・まつもとりえこが振り返ります。
*レビューはネタバレを含みます。
ドラマ開始およそ15分、出会いのシーンから9分でふたりは結婚していた。
阿部サダヲと松たか子、なにかと共演の多いふたり。映画『ジヌよさらば〜かむろば村へ〜』(2015)でも夫婦役を演じていたし、5年前に放送されたスペシャルドラマ『スイッチ』(テレビ朝日)では、夫婦ではなかったものの分かち難い絆で結ばれる元恋人同士だった。『スイッチ』は、阿部の役が検事であるという面でも今回と重なる。
『しあわせな結婚』で阿部が演じるのは、50歳まで独身主義を貫いてきた弁護士。検察のあり方に失望して検事から転身、テレビのコメンテーターも務め、今はバラエティや討論番組にも出演する人気者だ。しかし、ある日突然身体に異変を感じて入院、孤独感に苛まれる中で偶然松たか子演じる鈴木ネルラと出会い、恋に落ちる。
「今夜何食べたい?」と聞かれるのも、家族で食事も、親戚付き合いも嫌な幸太郎。だから小雪演じる元カノやニュースショーのプロデューサー(堀内敬子)らにモテるにも関わらず結婚を敬遠してきた。そんな彼がポリシーを曲げてあっという間に結婚してしまうだけの魅力が、ネルラにはあったのだ。
ネルラは寝相が変で、「股関節がちょっと……」と寝起きに不思議な歩き方をしている。ソファで原田幸太郎(阿部サダヲ)に抱きつくところも、腕だけでなく両足まで幸太郎に乗せる感じがちょっとユーモラスでかわいらしい。幸太郎を初めて家へ招いたときの、クロワッサンの真ん中から無心でかぶりつくシーンも印象深い。観る者の視覚にも聴覚にも、そして味覚にも訴えてくる。手にまとわりつくパンくずの触感さえも思い出される。こういった「変なところ」がとびきり魅力的に映るのは、松たか子という役者の力によるものだろう。
ネルラは登場からずっとミステリアスな人だ。ふと思いがけないことを言い出すときもあるし、必要以上に自分のことを語る雰囲気がない。にも関わらず1話でたっぷり見せられる魅力的な面によって、彼女に対して怖さより先に親しみを感じてしまう。この先どうなるか、彼女の真実がどこにあるのかについても、不安よりも期待が高まってしまう。ただ、そんなふうに好感を持った後にふと、もしも彼女が警視庁の黒川(杉野遥亮)の疑惑どおり元婚約者の殺害に関わっているのだとしたら、そんな過去を持つ人がこんなにも魅力を振りまいて生きていくことができるのかと怖さを感じもする。
Edit_Yukiko Arai