誰しも着こなしの要となるアイテムがひとつくらいはあるはずで、その人らしさを形づくるエッセンシャルと言えるのではないか。スタイルに一家言ありな6人に不可欠な私物を見せてもらった。これだけは譲れない、“とっておき”があるって素敵じゃない?#あの人のスタイルに欠かせないもの
歌舞伎役者・片岡千之助のスタイルに欠かせないもの
大切な人から譲り受けたジャケット
歌舞伎役者・片岡千之助
〈アレキサンダー・マックイーン〉のジャケット

「大切なものを受け継ぐことが、人生のターニングポイントになる」
これは尊敬してやまない、育ての父でもある、田原桂一の〈アレキサンダー・マックイーン〉のジャケットで、僕が小さい頃からずっと家にあったものです。少し体格差があって僕には大きかったのですが、ある時からオーバーサイズでもいいかなと思って着るようになって。年を重ねるにつれて僕の骨格も変わり、どんどんちょうどよくなっていきました。人に会うときはジャケットや羽織り物があればいいなと思っているので、セミオーダーのジャケットも持っていますし、夏用の新しいものや、セットアップなど、いろいろ集めています。でもこれがいちばんカジュアルにもクラシックにも着られるので、今となっては最も頻繁に着ている一着です。
春や秋なら薄手の服にこのジャケットを羽織るだけでいいし、冬場はタートルネックのニットの上に着れば暖かい。格子柄で派手に見えるけど品もあって、デニムに合う。〈アレキサンダー・マックイーン〉というブランドが持つある種の深みっていうのかな、シンプルで足し算だけじゃない世界、そういうものが好きなのでしょうね。
田原の形見の服は他にもたくさんありますが、大事なものには慎重になってしまう。それに、出合いには全てタイミングがありますし、いつ、どんな時に身につけるかが人生のターニングポイントになりうる。受け継ぐとは、それくらい大きなことだと感じています。僕のような歌舞伎の家に育つと、受け継いでいくのは当たり前だと思われがちですよね。祖父が演じた役を僕が演じるのなんてごく自然な流れですからね。僕としても、田原が気に入って着ていた服を着る時にそんなことを少し意識する部分はあります。職業を継ぐわけではないですが、存在そのものにどこか憧れている自分がいます。かつて本人が袖を通していたジャケットですから、僕にとって意味があるのだと思います。傍に感じていたいのでしょうね。

Photo_Takao Iwasawa Styling_Kazuro Sanbon Hair&Make-up_Kazuyoshi Miyamoto Text_Neo Iida
