私の勝手な意見だけれど、マッシュポテトには二種類ある。
ひとつは、じゃがいもをゆでて湯を切り、ざっくり粗く潰して塩・胡椒しただけの簡単なA方向。もうひとつは、ゆでて湯を切るところまでは同じだけれど、念入りに潰して鍋のなかで練りながらシルキーな口当たりに仕上げるB方向。しかも、バターや生クリーム、牛乳が入る。
AとBとでは口当たりも風味も大違い。Aは素朴、Bはおしゃれで華やか。じゃがいもをゆでるところまではいっしょなのに、Y字路から別の道を進むと、まるで違うものになる。
じゃがいもとバターは、そもそも最強の組み合わせ。たとえば皮つきの熱いベイクドポテトを割ったところにバターをたっぷりのせ、とろんと溶けてじゃがいもの肌に染み込む黄金色の情景は、真冬のお楽しみ。ほわっと立ち昇る白い湯気のなかにバターの香気が充満して、鼻先をくんくん鳴らしてしまう。
あの幸福感をもっと高めるのが、B方向のマッシュポテト。
せっかくだから、バターも生クリームもたっぷり使いましょう。バターと生クリームはうまみとまろやかさのため。牛乳は全体をしっとりまとめるためだから、入れ過ぎ注意。全部を混ぜて水分を飛ばしながら木べらで練っていると、だんだん艶がでてきてシルキーに光ってくる。ふだんのマッシュポテトは素朴なA方向でも、年末の「お疲れさま」のご馳走には絶対B方向、もうこれしかないという気分が盛り上がってくる。
【材料】
じゃがいも(男爵)大2個
にんにく1片
牛乳1/4カップ
バター大さじ2〜
生クリーム1/2カップ
塩小さじ1/3
白胡椒適宜
【つくり方】
①じゃがいもの皮をむき、大きめの乱切りにして水にさらす。
②小鍋に湯を沸かし、❶のじゃがいも、塩(分量外。小さじ1/2ほど)、ざっくり潰したにんにく(芽を取り除く)を入れ、柔らかく煮る。
③湯を捨て、鍋のなかのじゃがいもとにんにくをフォークの背などでまんべんなく潰す。
④ふたたび鍋を火にかけ、水分を軽く飛ばす。
⑤牛乳、生クリーム、バターを加え、強めの中火にかけて木べらで練りながら煮詰め、全体をもったりさせ、光沢を出す。仕上げに白胡椒をふり、味をみて必要なら塩少々を加える。
とりわけ肉料理にはベストパートナー。塩・胡椒して焼いた牛肉や豚肉の隣に雪をかぶった小山のようなマッシュポテトがあれば、すべて成立。食べ進んでいるときが、また楽しいんです。だんだん肉汁が染みて、べつの風味のマッシュポテトが現れる。赤ワインも進んで困る禁断のおいしさ。一年の終わり、食卓でうっとりしましょう。

