ニューヨークで暮らすアジア人夫婦が、息子の誘拐事件に直面したことをきっかけに、二人が抱える秘密が浮き彫りとなっていく。映画作家・真利子哲也が、オールニューヨークロケを敢行した本作『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』(9月12日全国公開)で、主人公である賢治(西島秀俊)の妻、ジェーンを演じたのは、台湾出身の俳優、グイ・ルンメイ。仕事、育児、介護に追われるアジア系アメリカ人女性の葛藤を、人形劇という表現手段を通して繊細に演じたグイ・ルンメイは、現代女性が直面するリアルな問題を、どう演技で昇華させたのだろうか。23年というキャリアで培った演技への純粋な情熱と、真利子哲也監督による英語劇に挑戦した新境地について語る。
グイ・ルンメイが問う、現代女性の生きづらさとは?
映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』で人形劇師役に挑戦。

──今回、監督であり脚本家でもある真利子哲也さんのストーリーテリングについて、どのようなところにユニークさや魅力を感じましたか?
監督は現場で私たち役者に、いつも大きな空間を与えてくれるんですね。撮影前の準備段階では脚本やキャラクターについて、じっくり時間をかけて議論をしました。そうして現場に行くときには、ある意味もう準備万端なかたちになっているんです。それが監督のいつものやり方なのだと思いますが、撮影するシーンごとに、撮影前に必ず登場する役者全員が集まって台本の読み合わせをします。まず私たちの表現や演技を、発音、トーン、口調を通して聞き、それから具体的な指示を出して調整していく。とても独特な手法だと思いますし、監督が素晴らしい耳を持っているなと感じました。もう一つは、何人かの俳優が共演するときの立ち位置や動線を決める「ブロッキング」を、必ず一回やるんです。カメラマンと照明スタッフが私たちの動きをしっかり把握できるので、本番はとてもスムーズでした。
── ジェーンというキャラクターは、ニューヨークでアジア系アメリカ人として生きる自分、人形劇師として表現したい自分、そして介護の必要な父の娘、幼い子どもの母、そして妻として生きる自分など、様々な側面を抱えています。そこから生まれる葛藤や思いに、どうやってご自身を近づけてキャラクターを立ち上げていったのでしょう?
女であっても、男であっても、現実の生活の中で生きる人間はもともと複雑なものですよね。それぞれの役割があるので。女性の場合、まず女の子として生まれて誰かの娘になり、自我が芽生えて、「私はこういうことをやりたい」と思い、それをかたちにしていく。でも、社会に出たら、就職して、従業員になったり、ボスになったり、社長になることもあるかもしれない。結婚したら妻になり、子どもが生まれたら母になる。男性もそうなので、人間はもともと複数の顔を持つものだと思います。ジェーンを演じるにあたって、彼女が単に移民であるだけではなく、はっきりと言いたいことがなかなか言えない、抑圧されたキャラクターだと感じました。幸い自分の好きな職業を見つけ、人形劇師になることができたけれど、親の面倒も見なければいけないし、子どもの世話もしなければいけない。仕事と家庭をどう両立するのか。パートナー、親、子どもとの関係をどう築いていくか。そういった多くの現代女性が直面する問題を描いたこの映画を、そうした悩みを抱えている方に観ていただきたいですね。
Photo_Masashi Ura Hair_Nelson Kuo Make_Yao Chunmei Styling_Fang Chi Lun, Quenti Lu Costume_CHANEL Edit&Text_Tomoko Ogawa









