行き詰まりを感じた脚本家・李(シム・ウンギョン)は、小さな旅に出る──。『ケイコ 目を澄ませて』(22)、『夜明けのすべて』(24)などを手掛けてきた三宅唱監督が、つげ義春の「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」の2作を現代的にアップデートした最新作『旅と日々』(11月7日全国公開)。ロカルノ国際映画祭にて日本映画では18年ぶりとなる金豹賞に輝き、世界が注目する本作で主人公の脚本家・李を演じるのは、韓国出身ながら日本映画界でも活躍する俳優シム・ウンギョン。本作で初タッグながら、見事なケミストリーを生み出した二人に、共に映画をつくっていったプロセスについて聞いた。
監督・三宅唱 × 俳優シム・ウンギョン
映画『旅と日々』が表現する、哀しくて面白い人間の豊かさ

──お二人はお互いについて、もしくはお互いが手掛けていたり、出演している作品についてどのような印象を持っていましたか?
シム 元々、三宅監督の作品が大好きだったんです。映画の主人公が、今を生きている人々であることに、とても惹かれていました。今回、『旅と日々』の台本をいただいたときも、読み終わった後、自分が持っている悩みや苦悩、これからどう生きていくかについて、私が演じる李とつながりがあるように感じたんです。なぜ監督は私のことを描いてるんだろう?と思ってしまうくらい。
──見透かされているような?
シム そうなんです。映画ファンとしてはありがたいという気持ちもありつつ、自分が本当にやってみたかったこと、お客さんと共有したいものが、まさに監督の台本の中にすべてあったので。だからやるしかないなと思いました。今までの監督の作品も素晴らしかったですが、『旅と日々』はさらに新しい雰囲気の映画になっていると思います。
三宅 最近思ったのは、シムさんが「なぜ自分のことを知っているんだろう?」と受け止めてくださったのは、もしかしたら僕と似ているからなんじゃないかということで。登場人物たちの悩みは、もちろんつげ義春さんの著作がベースにありますが、自分がわかることしか書けないので、僕の実感の反映でもあると思います。そうでないと、映画として責任が持てないのですし。そして僕の実感と言っても、それは別に特別なものではなくて、今の時代に、みなさんと同じようなニュースを見聞きしながら生きていて、それへの反応が実感をかたちづくっているので、シムさんだけでなく、観客の方ともいくらかは共通する実感なのかな、とも思います。
シム 登場人物がみんな特別じゃないんですよね。それでも生きている。どれだけ不器用な存在でも、「大丈夫だよ、自分らしくいて」と思わせるような、そういうメッセージが必ず監督の作品にはあるんですよね。いつもそこにとても感動します。
──三宅さんは、シムさんをお見かけしたときに、「こんな面白い存在感の方がいるんだ!」ととても驚かれたそうですが。
三宅 シムさんに会った時の第一印象は鮮烈でしたね。直感で面白そうだと思いましたし、予想以上に面白い人です。
シム 私は全然自分のことを面白いとは思わないから。
三宅 自分のことを面白いと思ってない人が面白いんですよ。
シム いつも真剣なので、私は。
三宅 そこが魅力なんだと思います。僕は真剣で真面目な人に惹かれます。
──三宅さんの作品にも、真剣な人が出てくる印象があります。
三宅 そうですね。僕がどちらかというと不真面目な人間なので、真剣さに憧れてるんです。昨日も『旅と日々』のジャパンプレミア上映から帰って、YouTubeを1時間くらい見ちゃったもん。メール返さなきゃいけないのに、全然ダメだね。
シム いや、私も3時間見ました。
三宅 え、3時間、YouTube見てたの?早く寝なきゃって話なのに。
シム 昨日は、ジャパンプレミア上映の一人反省会をしてました。
三宅 真面目か。
photo_Wataru Kitao styling_ Yoshiyuki Shimazu hair & make-up_ MICHIRU for yin and yang(3rd) edit&text_Tomoko Ogawa






