6人のサムライのお仕事道-04 高橋 純さんが特別である理由。「〝着る人〟を輝かせる それが洋服屋の使命です」

6人のサムライのお仕事道-04 高橋 純さんが特別である理由。「〝着る人〟を輝かせる それが洋服屋の使命です」

何かを極めた人たちにはきっとスペシャルな経験や方法論、 意識の持ち方がある。そんな仕事の“礎”は迷える子羊、 働くギンザガールのポラリスとなり照らしてくれるはず。 いぶし銀に光るサムライ6人に聞いた、彼らが特別である理由。


 

「〝着る人〟を輝かせる それが洋服屋の使命です」

銀座 髙橋洋服店 店主
高橋 純 さん

 

「来るものは拒まず、去る者は追わず。新陳代謝で生き残ってきた街ですからね」と、のっけから渋い語りで銀座を評する髙橋洋服店の高橋純さん。彼の地で100年以上の歴史を誇る随一の老舗の四代目、街の若旦那衆がそのダンディなスタイルに憧れる存在だ。

幼少からひとつビルの中に店と縫製工場、住居があって「職住接近の暮らし。後ろからやすやすと声をかけられない昔気質の職人たちの背中を見て育った」という。当然のごとくテーラーの道を歩んだのかと思いきや、後継を決意したのは「大学のゼミと洋服屋を天秤にかけ」、勉学からの撤退のエクスキューズだったと冗談めかす。

実際、それまでロクに針も鋏も持ったことがなかったが、卒業と同時に紳士服の洋服学校へ。そこからの3年が「人生一番の修行」。

「授業はね、卒業までに縫製の基礎が身につく程度。だから夕方学校が終わると着替えて工場へ直行。夜の10時くらいまで工場長の真横で裁縫をさせられ、長期休暇ともなると店で親父(三代目・馨さん)の隣で付きっ切りで勉強させられました」。そこで〝プロの仕事〟とは何たるかを学んだ。「3年で倍以上、人の7年分は修練しましたね。若い人たちにあの時代のプロの緊張感に触れさせてやれないのが残念なんです。『仕事はそんな生易しいものではない』と、口ではなく体で教えられましたから」。その後ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションに留学、注文紳士服課程で日本人初の卒業生になった。

冒頭の言葉通り、変貌著しい日本一の激戦地で看板を守っているのは、ひとえに高橋さんが注文洋服店としての矜持を受け継ぎ、変えなかったから。その最たるものが「顔が見える商いをする」ことだ。「銀座には立派なテーラーが数あれど『うちは技術屋がお客さまの目の前で鋏を握り、洋服を作るのがウリだ』と父はよく言っていました。1着1着すべて自分で袖を通して検品していましたから、何軒も店を構えたら『身ひとつでどうやってそれをやれるんだ』と。ビジネスを広げることより技術を最優先していました」と高橋さん。「時代も変わり、私自身は一職人であるとともに経営者として銀座の表舞台に出ることも多くなりました。それでもやっぱり根本的な作業は欠かせないんですよ。出来上がった服はすべて私がチェックしています。それをなくしては洋服屋の親父として失格ですから」

採寸して型紙を作り、仮縫いしたものを一度試着。その後修正、本縫いを経てやっと完成する注文服。1着平均35万円は、適正以上の価値がありながらも決して安くない買い物だ。

「背広は飾っておくもんじゃないんです。ハンガーに下がった綺麗な既製服とは違って、注文服は着る人の体形に合わせ誂える。〝男の究極の作業服〟だから1日着ても窮屈でなく、身につけた立ち姿こそ美しくなければならない。それが我々の使命です。その昔、武士はあり金をはたいて鎧を作りました。背広もビジネスマンにとっては鎧。毎日戦っているんだから、いい加減な1着では大事な場面で命を落とす。その人を本当の意味で輝かせなければいけないものなんです」と高橋さん。さすが、銀座で100年は伊達じゃない。

 

CHRONOLOGY

-1903-

創業。正確には不明ながら開業はさらにさかのぼる

-1949-

三代目 高橋馨の長男として生まれる。銀座の店舗ビル2階が住居、4階に縫製工場があった

-1972-

慶應義塾大学経済学部卒業。髙橋洋服店に入社し工場勤務。同時に日本洋服専門学校に入学する

-1976-

ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのビスポークテーラリング科を卒業する

-1991-

店主に就任。100周年の2003年には技術者養成のための教室を開講。現在はローマで修行した次男の翔さんが裁断士として共に働く

 


 

【サムライメモ】
営業後の取材にもかかわらず、なんと3時間弱も語ってくれた高橋さん。けだし名言ばかりのインタビュー、(オフレコ含め)紹介しきれないのが口惜しいばかり。

 

高橋 純

たかはし・じゅん≫ 生粋の銀座生まれ、銀座育ち。お店のWEBに綴った男の装いについてのエッセイは必読。著書『「黒」は日本の常識、世界の非常識』(小学館101新書)。

 

Illustration: Toshikazu Hirai Text&Edit: Aiko Ishii

 

2017年6月号掲載

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