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自分らしくあればそれだけでいい。『mid90s ミッドナインティーズ』ジョナ・ヒル監督インタビュー

自分らしくあればそれだけでいい。『mid90s ミッドナインティーズ』ジョナ・ヒル監督インタビュー

数々の話題作を生み出しているスタジオ「A24」にて製作され、名俳優ジョナ・ヒルが初監督・脚本を手掛けた映画『mid90s ミッドナインティーズ』が9月4日(金)から公開される。1990年代半ばのロサンゼルスを舞台に、シングルマザーの家庭で育った13歳の少年スティーヴィー(サニー・スリッチ)がスケートボードを通じて仲間と居場所を見つけ、呼吸のしやすい世界を広げていく。ジョナ・ヒル自身が90年代に体験した、感情、記憶をもとにつくりあげられた、愛すべき青春ドラマだ。3年かけてシナリオを練り上げた彼は、この映画以前、以後の自分をまるで別人のように感じる、と振り返る。誰もが実力派と認める30代になっても、デビュー当時の“モテない系コメディ俳優”としてのレッテルがついてまわっていた彼が、素晴らしいクリエイターであることを世界に知らしめた、まさにゲームチェンジとなった本作について振り返る。


──脚本を書く上で、親しい人に見せたり意見をもらったりしたのでしょうか?

脚本家、監督、俳優、友人からのメモをもとに20回くらい書き直したかな。どこがよくて、どこがダメなのかを粗探しすることはストーリーをつくる上ですごく重要だし、友人の台本を読んで意見するのも好きですね。

 

──ひどいことを言われたりも?

ありました(笑)。映画『ジョーカー』の共同脚本をしたスコット・シルヴァーという素晴らしい脚本家に意見をもらったんですが、彼が「このメモを渡したら、友情が終わることになるかも」と言ってきて。でも信頼関係があるから、僕は「とにかく持ってこいよ!」と返したんです。実際、彼の指摘は厳しいものだったけれど、最初に書かれていた「これは何についての映画なんだ?」という問いにハッとさせられました。おかげで、自分が心の底で何を考えているかを明確にすることができた。結局、スケートカルチャーとか90年代とか成長とかを脚本に取り込んだとしても、自分らしくさえあればいいということを教えてくれたんだと思う。

mid90s|ジョナ・ヒル監督

 

──2014年、OPENING CEREMONYのショーで発表した「100% LOST COTTON」をスパイク・ジョーンズと共同脚本されていましたが、そこで学んだことはありました?

あれは僕が初めて書いた戯曲で、スパイクとの初仕事だったんだけど、それ以来、彼は僕の最大のメンターであり、親友のひとりになりました。それに『mid90s ミッドナインティーズ』の脚本は、ニューヨークの彼の部屋でも書いたんです。スパイクは、僕が地球上で一番好きな人かも。最近、1996年に「ガール」からリリースされたスケートビデオ『MOUSE』を大きいスクリーンで観なおしたら、あまりに最高で興奮して電話をしてしまったんですが、彼はとても喜んでくれました。彼の作品に流れるスピリットというか価値観に、僕はすごく影響を受けていますね。

 

──マーティン・スコセッシ、ベネット・ミラーといった監督作に役者として出演した経験を踏まえて、映画監督に求められる資質はなんだと考えます?

揺るぎない決意のようなものかな。ほかにどんな資質が必要かどうかは、たくさんありすぎて計り知れない。そもそもこの映画を撮ったのは3年前とかなり前なので、もう自分は当時とは別人のような気分なんですよね。映画のおもしろさって、人生の節目を振り返ったときに4年前の自分は今とは全く違う場所にいると気づかせてくれること。そして、90年代に行くこともできる。数値化できる時間の塊のようなものだと僕は思ってて。

 

──振り返ってみると、3年前の自分と今と、具体的にどんな違いがありますか?

初めての監督作だったので、もう少し映画を特別なものとして扱っていたかもしれない。何もかもをシリアスに受け止めてしまっていた。でも、今はコマーシャルとかMVもたくさん撮っているし、二作目も動いているので、正直、貴重だなという実感は薄まってきているけれど、純粋にワクワクできるクリエイティブなものになっている気はしますね。

──不安を感じることがなくなった?

完全になくなりはしないけど、不安になることは確実に減ったし、楽しい気持ちが強い。世界で今起きていることを見られる喜びに近い感じ。何かを0から生み出せることは本当に幸せだし、ラッキーだなと思う。だから、完璧でなきゃいけないというプレッシャーは減ったかな。偉大なるマーティン・スコセッシを見ていても、映画の中に身を委ねている感じがある。プロダクションの醍醐味は、そのプロセスにあるから。

 

──2018年、当時34歳で本作を完成させたのは、正しいタイミングだったと思いますか?

若いうちに監督しなくて本当によかった!若い頃って、自分のことや好みがあっても、それをどうやって説明すればいいのかわからない、みたいな不透明な感じだから。年を重ねるごとに成熟するから、ストーリーテリングも上手くなっていく。個人的に、脚本家の一番美味しいときって30代後半か40代前半から50歳くらいまでなんじゃないかと思う。若いエネルギーと円熟した経験と賢さ両方がある。世間では中年とされる世代だけど、映画の世界では、偉大な監督、脚本家の多くは、30代から40代前半で本領を発揮している印象がある。

 

──撮影には思い出に残っているアドリブのシーンはありますか?

警備員役のジェロッド・カーマイケルとスケーターたちがフェンス越しに絡む場面があって、あそこは僕がジョークを言って、ジェロッドが冗談で返して、みんなが自由に好き勝手言い出して生まれたんです。ジェロッドは最も素晴らしいコメディアンのひとりだし、彼がいてくれて正直興奮しちゃって。ほかにも思いれのあるシーンばかりですが、僕にとってアドリブは得意分野なので、あの瞬間はすごく楽しかったですね。

 

──ガス・ヴァン・サント監督が、あなたのことをすごくアドリブ上手な俳優と言っていました。

確かに、監督よりも俳優のときのほうが、アドリブする方ではあるかもね。まだ一本しか撮っていないので、次の作品ではもっとみんな自由に演技してくれたらいいんだけど。ガスの映画『ドント・ウォーリー』ですごく覚えているのは、クランクインした確か二日後に、ガスがいつもの静かでゆっくりした調子で、「いつアドリブを始めるんだ?」と聞いてきたこと。ガスは友人だけど、僕のヒーローのひとりだし、即興で何かをするつもりは全然なくて、しっかり準備して現場に入ったんだけど、彼が許可してくれたので、「オーケー。じゃあやるよ」って(笑)。

 

──映画と合わせてA24からリリースされた「Inner Children Zine」では、DJプレミア、キム・ゴードン、マーク・ゴンザレスといった面々にあなたが取材したそうですが、その経緯について聞かせていただけますか?

10代後半で役者として有名になって、外見に対して誹謗中傷を受けて傷ついていた自分に気がついて、自分にとっての憧れの人や家族にインタビューしたんです。世間に批判をさせてしまうことで僕は自分を傷つけてきたし、ネガティブな記事を読んだとしても絶対的な自信を持っていると僕が信じていたヒーローたちはどう感じているんだろうと思って。そうやって僕自身が心を開いていくと、ほかの人たちも開いてくれるんですよね。それで、彼らの内側にも当たり前に傷があるとわかった。脚本づくりやこのZineを通じて、アーティストとして、人として、自分が何者であるかを理解し、そして自分自身を愛することを学ぶことができました。

 

──ジョナ・ヒルさんのファッションもご自身に似合うものを知っている感じがして、いつも素敵です。

(着ているシャツを指して)これ? これはヴィンテージのマリリン・マンソンTシャツで、周りからはいつもクレイジーって言われるんだけど、僕は大好きだし、お気に入りです(笑)。

 

──ファッション・アイコンとしても人気を集めていらっしゃいますが、ご自身のファッションの楽しみ方を教えてください。

90年代は男がファッションにすごく興味があると認めると、「男らしくない」と馬鹿にされた。だから、自分のファッションへの情熱を自覚してオープンになるのに時間がかかった。それに、僕は以前もっと体が大きかったから、大きい人の服の着こなしを学ばなきゃいけなかった。当時は、大きい人向けのクールな服はあまり作られていなかったし。だから、好きなものを何でも着られる体型になったときは、ミックスコーディネートができる!と興奮して気が狂うかと思ったくらい。それで、ロンドンのスケートカンパニー、Palaceのアイテムにハマったんです。まわりが僕のスタイルについて注目し始めたのは、最高の友人であるPalaceのクルーみたいな格好をしていたからだと思う。でももっとミックスしてみたくなって、そこからタイダイ染めのものとハイエンドなものとを組み合わせてみたんです。そうしたら、そのコーディネートが話題になって。

 

──お洒落にミックスされたことで、タイダイ染めの価値を底上げしたと思います。

信じられないけど、僕みたいなコーディネートをする人も出没したりして(笑)。自分のスタイルが注目されているんだと実感したのはその頃ですね。僕にとってファッションは映画のようなもので、すごくドープな自己表現のひとつ。二つのクレイジーなものをミックスするとやりすぎになるし、頭ではわかっていることを、実際どうやってつくり上げるか、ということだと思います。

 

『mid 90s ミッドナインティーズ』

mid90s|ポスター|ジョナ・ヒル監督

原題: mid90s
監督・脚本: ジョナ・ヒル『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『マネーボール』(出演)
製作総指揮: スコット・ロバートソン『レヴェナント:蘇りし者』、アレックスG・スコット『レディ・バード』
製作: イーライ・ブッシュ『レディ・バード』
音楽: トレント・レズナー、アッティカス・ロス
出演: サニー・スリッチ『ルイスと不思議の時計』『聖なる鹿殺し』、キャサリン・ウォーターストン『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』、ルーカス・ヘッジズ『ある少年の告白』『ベン・イズ・バック』、ナケル・スミス
配給: トランスフォーマー

2018年 / アメリカ / 英語 / 85分 / スタンダード / カラー / 5.1ch / PG12

2020年9月4日(金)新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイントほかにて全国公開
©2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

http://www.transformer.co.jp/m/mid90s/

Jonah Hill ジョナ・ヒル

本作で監督デビュー。脚本も手掛けている。『40歳の童貞男』などのジャド・アパトー作品でキャリアを積み、『マネーボール』(11)でブラッド・ピット演じる主人公の右腕を演じアカデミー賞助演男優賞にノミネート、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)ではレオナルド・ディカプリオの相棒役で再び同賞にノミネートされるなどいまや不動の実力派人気俳優として活躍。フィル・ロード&クリス・ミラー監督の『21ジャンプストリート』(12)、『22ジャンプストリート』(14)では製作総指揮も務めている。

Text & Translation: Tomoko Ogawa 

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