いい香りを纏うレディには、幸せが訪れるという。 見ているだけでも美しい、香水の奥深い世界を紐解きます。
フレグランスの世界〜第一章 記憶と香り

街で知らない人にすれ違った瞬間、香りをふわっと感じ、過去の記憶が呼び起こされた経験はない?初恋、失恋、家族との記憶…。ずっと忘れていた思い出や感情が鮮明に蘇る。
「視覚や聴覚をはじめ、人間には五感があります。その中でも嗅覚は、脳へ直接働きかけ、本能をダイレクトに左右する唯一の感覚器官。香りは脳と深く関係していて、感情や印象さえもコントロールするほどの大きなパワーをもっています。梅雨の時期の鬱々とした気分の解消にも、香りが貢献してくれるはず」
そう教えてくれたのは、香りのプロデュースや香水診断などを手がける香水コーディネーターの牧野和世さん。過去の記憶をテーマにした香水が数多く発表されているのも、香りと脳が密接に関わっているから。
〈シャネル〉の新フレグランスライン〈レ ゾー ドゥ シャネル〉も、創業者のガブリエル・シャネルにゆかりのある3つの街からインスパイアされている。3つの香りはどれも柑橘がふわりと香る軽やかさが特徴だけれど、妖艶でエキゾチックな香りからビッグウェーブを感じる爽やかなものまで、それぞれが個性的。行ったことがなくても非日常的な景色が浮かび上がり、リフレッシュできる。
香水を選ぶとき、誰もが「いい香りを纏いたい」と思うはず。しかし、〝いい香り〟には定義がない。なぜなら、過去の記憶や経験、年齢などによって、〝いい〟と思う香りには多少の差が生まれるから。香りを嗅いだ瞬間、美しい情景が自然と広がり、心地いい気分に包まれれば、それは今の自分に必要であり、相性の〝いい香り〟だと牧野さんは言う。信じられるのは自分の感覚だけという点も、フレグランス選びの楽しさであり、感性が磨かれるポイント。
湿気の多い今の時期、香水をはじめ多くの香りが、良くも悪くも普段より強く匂い立つ。いつにも増して香りを意識して過ごすと、懐かしい感情や心温まる記憶に再会できるかもしれない。そう思うと、ワクワクが止まらない!
3つの都市の空気を 肌で感じてプチトリップ!
ビターでキリッとしたグリーンノートの〈パリ ドーヴィル〉、大波を思わせる、すがすがしい香りの〈パリ ビアリッツ〉、シトラスを基調に穏やかなオリエンタルノートの〈パリ ヴェニス〉が登場。
*(右から) レ ゾー ドゥ シャネル パリ ビアリッツ オードゥ トワレット、パリ ヴェニス オードゥ トワレット、パリ ドーヴィル オードゥ トワレット 各125ml ¥16,000(シャネル(香水・化粧品) │ シャネル カスタマーケア 0120-525-519)
参考文献:広山 均『香り選書5 香りの匠たち ─香水王国フランス賛歌─』(2008 フレグランスジャーナル社)/ジャン=クロード・エレナ、芳野まい訳『香水 ─香りの秘密と調香師の技』(2010 白水社)
相良嘉美『香料商が語る東西香り秘話』(2015 山と渓谷社)/サビーヌ・シャベール、ローランス・フェラ、島崎直樹監修、加藤 晶訳『フォトグラフィー レア パフューム 21世紀の香水』(2015 原書房)
Photo: Masahiro Sanbe Styling: Yuriko E Text & Edit: Masumi Kitagawa Shooting cooperation: Morita Antiques