クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。25歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.24 喜怒哀楽の示し方
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.25 健やかな忙しさ
vol.25 健やかな忙しさ
「たまには気分を変えて、吉祥寺とか中目黒でランチする?」
長年付き合っているカップルみたいな提案をしてくれたのは、だけど、一児の母でもあり友人でもある彼女だった。スケジュールが流動的な者同士、急な仕事が入っても気を遣いすぎなくて良い関係なので本当に助けられる。
月初めのLINEで、
「今月中旬以降ご飯でもどう?」
「行きたい!じゃあ近くなったらまた連絡取り合おう」
「ごめん。ちょっと立て込んで来ちゃって、下旬は仕事?」
「来週は厳しいな…来月こそは!」
とっても会いたいけど、会えなくても残念に思いすぎない。軽いエールを送り合いながら次の機会を待たずして待つ。それでも繋がっていたい人、繋がっていてくれる人たちしか、もうこの先残っていかないのかもしれない、と返信を打ちながらふと思う。
本当に大事にしていきたい想いがあれば続いていくのだ、何事も。諦めずに連絡を取り合いランチの約束が叶ったのは季節が春に変わろうとしている頃だった。
仕事前集合。お互い次の現場に行きやすい中間地点でお店を探した結果、吉祥寺と中目黒は残念ながら条件から外れてしまったけど、そんなの全く関係ない。実際のところ、会えれば何だって良いのだ。待ち合わせ場所で髪の毛を明るく染めた私に手を振ったかと思うと「似合う!」と顔からはみ出るような笑顔で駆けて来て、「こういう時、見つけやすくて良いね!」と茶目っ気だって忘れない彼女。
店に到着し、予約した席に通され、料理を食べ、相槌を打ち、喋り、紅茶を飲み、彼女を見つめながらふと我に返る。「女性って器用だなぁ」と。
限られた時間の逢瀬で、全てを味わおうとする。
自分の近況を話し、相手の話を聞きながら笑い、同時に美味しいもので胃を満たす。仕事をしながら、育児も家事もする彼女からは、いつも以上にその女性特有のパワーを感じた。私がさらに彼女を好きになったのは、「あっちにこっちにすごい忙しいでしょ!」と尋ねたら、あっけらかんと「そうなの!忙しくて体力的には大変なんだけど、変に悩む時間も誰かに嫉妬する時間もないから、精神的には今の方が健康かも!」と言ってのけた瞬間だった。
彼女だって、元から強かった訳じゃない。留学先のベッドで1人寝ていたら、開け放った窓から隣の家の生活音や子供たちの声が聞こえてきて、「自分何やってるんだろう?」と考え過ぎてしまうこともあったらしい。だけど彼女は今、私の目の前でその時のことをなんでもないよって顔で話していて、つい見惚れてしまった。
「私もいつか必ずここに辿り着きたい」
カールが取れかかっている彼女の髪を見つめながら、デザートのチーズケーキを頬張った。
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家入 レオ
16thシングル『未完成』(フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』主題歌)のginzamagでのインタビュー:
家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
leo-ieiri.com
@leoieiri