「その歴史をさかのぼると、現代に続く漫才の基礎を作ったといわれるエンタツ・アチャコさんが活躍した1920年代から背広が主流だったようです。夢路いとし・喜味こいしさんをはじめ、その後登場した人気者たちもスーツ姿が定番。明確なルールはないと思いますが、“舞台でお客さんの前に立つ時はきれいな衣装をまとう”という当時のマナーが今も根づいていると感じます。『M-1グランプリ』の歴史を振り返ってみても、優勝するコンビはスーツを着ていることが多いんですよね。ビシッと整えた服装に身を包みながらふざけたことを言う。そのギャップが面白さをより引き立てている部分もあるのではないでしょうか」
横山やすし・西川きよしやオール阪神・巨人などスーツを着用するコンビが多い一方で、80年代に漫才ブームをおこした『THE MANZAI』では、トレーナー姿のB&Bやオレンジのつなぎを着た紳助・竜介など、伝統を覆し、自由に服を選ぶコンビも登場した。
「ボケとツッコミという視点から考えると、たとえば錦鯉さんの場合、ごく普通のスーツ姿の渡辺さんの隣に上下真っ白な雅紀さんが並ぶことで、〝この人がボケるんだろうな〟とひと目でわかるはずです。ジャルジャルさんやロングコートダディさんは、そろいのシンプルなスーツで、ボケツッコミが入れ替わっても見やすい。余計な情報を与えない衣装選びだと思います」
『THE SECOND』では、優勝したギャロップに高級スーツの仕立券が贈られた。
「衣装もネタの一部で、その人を表す重要なものだとあらためて感じました」