ヴィヴィッドからペールトーンまで、デザインもさまざまなピンクアイテムがメンズに定着。ジェンダーレスなおすすめをピックアップすると同時に男性が着るようになったポイントを服飾史の専門家に教えてもらった。
服飾史からみる“男のピンク”
お話を聞いた方
朝日 真さん
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朝日 真
あさひ・しん>> 早稲田大学文学部卒業後、文化服装学院服飾研究科を修了。文化服装学院専任教授で近現代西洋服飾史を担当している。
実は、服の素材には、18世紀まで性差がないとされているんですよ。新古典主義時代までは、レースなどの装飾をふんだんに盛り込んだロココ様式が貴族に愛されました。その中で特にステータスシンボルとして重宝されたのがピンクなんです。現代は染料で簡単に濃度を調整できますが、当時、中間色は至難の業。ピンクに染めるには昆虫のコチニールカイガラムシを原料としていたと言われています。手間暇かけた生地は高価で取引され、地位の高い者たちがまとうドレスやコートにのみ用いることができたということです。
18世紀後半、イギリスからイタリアへ留学する若者たちの華やかで自由闊達な装いにもピンクを見ることができます。教育の一環で訪れた場所で触れた現地の洒落者に刺激を受けて両性具有的なスタイルが生まれ、英国に戻ると、まだ一般的ではなかったパスタの名前から、〝マカロニ〟と呼ばれていました。そして19世紀に入ると対照的に、紳士のファッションはモノトーン化。でもたったひとつ、ウエストコートだけは例外で、派手な色やデザインが許されたため、そこにピンクが取り入れられることはありました。
20世紀に入って流行したのは、1960年代後半以降のロンドン。サイケデリックやグラムロックなど、音楽カルチャーの影響でヴィヴィッドピンクを使ったスーツを多くのアーティストが着用しました。彼らは「グラニー・テイクス・ア・トリップ」という有名なショップで衣装を選ぶことが多かったようです。服だけでなく、デヴィッド・ボウイのようにヘアメイクで取り入れていたケースもありますね。その流れを汲んで誕生したのが、1970年代後半にニューウェーブシーンから派生したニュー・ロマンティック。シンセサイザーなど電子音によるテクノ・ポップが話題をさらうことで、クラブでも蛍光色が目立ちました。レーヨンやナイロンに代表される化学繊維とも好相性だったのも特徴ですね。コットンやウールを用いたサイケデリックとは対照的。60〜80年代は、ファッションとサブカルチャーが絡み合ったときにピンクが選ばれるようになったということです。
Photo_Hikari Koki (products) Text&Edit_Minori Okajima