高尚に思える伝統芸能や教養の世界を知るにはどうしたらいい?それなら「体験」にお金をかけるのもその一歩です!
そろそろお茶のお稽古始めてみませんか? カルチャー体験vol.1

Q)お茶を習うことの魅力とは、何ですか ?
A)俗世から離れ、季節を五感で感じることです。
お点前だけじゃない、お茶の意義
1. ルールの外側にある壮大な自由。
2. 季節を受け止める。
3. 日常に余白を、心に無をもたらす。
大学生の時にお茶の稽古に通い始めて、気がつけば40年以上経っています。私は最初、お茶に花嫁修業やマナー教室のようなイメージを抱いていて、古臭いもののように思っていました。ところが通い始めてみたら、想像していたのとまるで違う空間がそこにありました。お稽古が終わって帰る時、実に清々しい気持ちになっているのはなぜだろう?と不思議でした。畳を歩く歩数から道具を扱う手順まで、お茶はとにかく決まりごとだらけ。壮大な不自由さの中で毎週お点前をしたりお菓子をいただいたりしていると、あ、掛け軸の言葉はそういう意味なのかとか、お菓子の銘に季節を感じたり、障子の外の雨音や風が葉を揺らす音にハッとしたり。人によってお茶の捉え方は哲学、宗教、芸術とさまざまでしょうけれど、決まりごとの外側、行間にあるものが無限に大きくて、それを五感で味わうことがお茶の醍醐味なのだと気づきました。道具も花もお菓子もその時1回きりで、次の週には違うものが出る。時は先へ先へと進むから、お稽古のひとときを五感で噛みしめるようになりました。
それに、お稽古場に入るとそれまで鬱々と抱えていた人生の悩みや日常の苛立ちがスーッと消えていく。異世界に飛んでいけます。お稽古が終われば俗世に戻り、依然として悩みはそこにあるけれど、気持ちの持ちようは変わるのです。いろいろ抱えている荷物をいったん手放す、そうした時間を持つためにお稽古に通っているとすら思えてきます。 お稽古場を訪ねる勇気が出ないなら、まずはデパートの茶道具売り場で足慣らしをしてみては? ふらりと気軽に覗けるし、求めやすい値段の可愛いお茶碗も結構置いています。お茶碗をいくつかそろえて、やかんのお湯で自分のためにお茶を点てるのもひとつの楽しみ方ですよ。またデパートの和菓子売り場を巡ると、各店が次々と季節を先取りした上生菓子を作っていて、そのデフォルメされたデザインを見るだけでも楽しいのです。
お稽古を始める前にできること
デパートの茶道具売り場を覗いてみる
雲母金あやめ流水茶碗 中村与平
茶碗 ¥7,600 茶筅 ¥3,400
日本橋髙島屋S.C.本館6階の茶道具売り場では、各流派の道具や作家ものの逸品、また普段使いの手頃な道具までそろう。オープンな売り場は初心者も気軽に立ち寄れる。
住:日本橋髙島屋S.C. 03-3211-4111 ㈹
オススメの本&DVD
『好日日記-季節のように生きる』森下典子/パルコ出版/¥1,500
映画化された『日日是好日』のその後の物語。二十四節気を軸に、お茶の稽古に通いながら自分に向き合う著者の1年間の日々を綴る。巡る季節の中で見落とされがちなさまざまな変化、日本語の美しさにも気づかされるエッセイ。
『茶の本』岡倉覚三/村岡 博訳/岩波文庫/¥460
東京藝術大学の前身「東京美術学校」の設立に寄与した思想家が1906年、英語で著しニューヨークで出版した本。「茶の湯の精神性を哲学や宗教、文明論で解き明かし、日露戦争勝利で列強と肩を並べようとしていた日本の誤った発展を暗に戒めてもいる名著」(森下さん)
©2018「日日是好日」製作委員会
DVD『日日是好日』6/4発売/¥3,900(通常版)
森下さんによる同名のエッセイを基にした2018年公開映画。武田先生の茶道教室に通い始めた大学生の主人公が、40代になるまでのできごとや心の有り様を、お茶を通して描く。監督: 大森立嗣 出演: 樹木希林、黒木華、多部未華子ほか 発売元: ハピネット/パルコ
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森下典子さん(エッセイスト)
1956年生まれ。大学時代から雑誌のコラム、取材記者として活躍。2002年に出版以来16年に及ぶロングセラー 『日日是好日』が2018年に映画化され話題を呼んだ。表千家教授。
Photo: Chihiro Oshima, Natsumi Kakuto (Takashimaya, Baikodo, Books) Illustration: Yoshifumi Takeda Text&Edit: Mari Matsubara