ここ日本には、ゆる~いものがいっぱい。見れば、つい「かわいい~」と反応してしまう。ちょっとダメな感じ、欠点や残念ポイントすらも愛らしいと思う感性って、実は昔からあったんです。そう教えてくれるのが、三井記念美術館で開催中の「日本の素朴絵」展だ。本展は、日本に昔からあった、様々な形式の作品に緩やかなタッチでおおらかに描かれた絵を集めたもの。「うまい・へた」の物差しでははかることのできない、なんとも不思議な味わいを持った作品が集合している。
埴輪(猪を抱える猟師) 1個 古墳時代 個人蔵
本展覧会では、ゆるくとぼけた味わいのある表現で描かれたこれらの絵画を「素朴絵(そぼくえ)」と表現している。絵巻、絵本、掛軸や屏風の絵、季節行事に使う道具、時には仏画として信仰の対象にもなってきた。主な描き手は庶民だが、中には禅僧などの高名な人物によって描かれた素朴絵もある。
もっとも古い時代の素朴な表現として展示されているのが、埴輪(はにわ)や人面の描かれた土器など、立体物。簡略化した人や動物などの像は、手作りの味わいもあって、どこかユーモラス。6世紀になり、仏教の伝来とともに本格的な美術作品も登場するが、山岳仏教が盛んとなり徐々に神仏習合が進むと、仏像や神社に祀られた神像や狛犬など、日本独自の神仏観から生まれてきた庶民的な造形が、多く伝世していく。
絵因果経断簡 1幅 奈良時代・8世紀 MIHO MUSEUM蔵
絵巻や絵本の絵も、なんとなくマンガっぽくも見える、愛らしい絵がたくさんある。絵と文字を組み合わせる物語小説は、貴族から庶民に至るまで、多くの人々を魅了した。テーマは釈迦や高僧の生涯、寺社の縁起といった宗教的なものから、動物を主人公とした寓話や恋愛譚と幅広い。不思議なかたちの建物や、子どもが描いたような人物など、ほのぼのとした情感と味わいたっぷりだ。