気がつけば、同じジャンルの本ばかり手にとっていませんか?普段、触手を伸ばさないジャンルの知識や考えを深められる読みもの(小説、漫画、WEBサイトetc..)を、その道に詳しい方に伺います。外国人も多く訪れる古書店で働く小宮山ユカさんには、「日本」を俯瞰して見ることのできる写真集を教えてもらいました。
自分の世界を広げる、読みもの案内。老舗古書店員、小宮山ユカさんの「気付いていなかった日本の姿に出合える3冊」

小宮山ユカ/古書店員
@yukaponsan
1939年に創立、本の街神保町で80年以上続いている老舗古書店、小宮山書店で働いている小宮山ユカと申します。小宮山書店はNY、LA、ロンドン、パリなどの海外アートブックフェアに積極的に参加し、世界に向けて日本の文化を発信する事をモットーとしています。今では海外のお客様が5、6割まで増えました。
日本の写真集、アートブックはレイアウトのデザインが美しく、印刷、製本技術が優れていて、本としての価値があると海外の方から注目されているんです。日本独自の写真スタイルも、大きな事象を撮るのでは無く、自分達の目の前にあるものにスポットを当て、新しい価値を見出すスタイルとして認知されています。
毎日仕事に追われ、慌ただしく過ごしていると見逃しがちな日常も、写真集のような切り取り方によって、様々な表情があることを私達に教えてくれます。海外の方からは見えていて意外と自分達では気付いていなかった日本の姿を、3冊の写真集を通して感じてみてはいかがでしょうか。
1.『Father 』橋口譲治
(文藝春秋)
言葉は伝わらなくとも、背中で感じる父親の姿は世界共通。“ お父さん”の姿を真っ直ぐに正面から写したポートレイト写真集のご紹介です。
全国112人、多種多様な職種、年齢の被写体の共通点は誰かの“ お父さん”という事。シンプルで偽りの無い言葉で語られたインタビューが興味深い。中でも“ 夢 ”の回答がいいですね。きっと私達が見る、お父さんはただのお父さんであり、夢を持っていたなんて考えた事がなかった。 “ 夢 ”というステップを描く、いつもと違う姿のお父さんにハッとさせられます。 高度成長期を支えたこの世代のお父さん達は国のために働き、現在の日本を築きました。欧米化が進み、SNSの発達もあり組織としてでは無く、個人が尊重されてきている現代の日本。でもそんな時代に一歩立ち止まって、時代を作ってきたおじさん達の姿を見て見るのもいいかなって思っています。
2.『かたち 日本の伝承 I』岩宮武二
(美術出版社)
クラシックな日本を探しに来る海外のお客様もいて、まずオススメするのがこちらの写真集 “かたち”。1955年より、8年間にわたり、私達の祖先が残してくれた日本の伝統的な暮らしの道具や古建築を収めた記録的写真集。
私達の日常を彩る“かたち” 。お茶碗、しゃもじ、急須、櫛、升、折り鶴、こけし、達磨などなど、今も身近な日用品から、文化の発展とともに今日では使わなくなった日本の伝承を真正面から撮影し、1ページ、1ページ丁寧にグラフィカルに配置されている写真は溜息ものです。プリント手法はグラビア印刷という日本独自の印刷技術で刷られており、色の濃淡が微細に表現されコントラストが強く、かたちの輪郭が浮かび上がってくるように鮮明で本当に美しいです。ちなみにこの印刷方法、今はもう現存する工場さんが少なく、グラビア印刷の本を求めて、ピンポイントに日本の写真集を探しに来る海外の方もいらっしゃいます。写真家が残してくれた日本の伝統を写真集を通して感じて見るのはいかがでしょうか。
3.『Television 1975 – 1976』望月正夫
(邑元舎 )
結構マニアックな内容ですが、海外のデザイン関係の方に見て頂いていいね!と言われるのがこちらの写真集。
1950年初期~半ばに掛け、一気に家庭に普及し洗濯機、冷蔵庫とともに三種の神器としてお茶の間にやってきたテレビジョン。私達世代ですら、大好きな番組は絶対見逃せないし、話題に付いていきたくてリアルタイムで必死にチェックと、何かと時代を作ってきたテレビ。そんなある意味でカルチャーの原体験を私達に与えてきたテレビの存在を、全く違う角度で捉えた写真家が望月正夫。報道番組や娯楽番組などをリアルタイムに、1プレート(6×6フィルム)に35コマの映像を写し、多重露光により撮影しており、それは私達が知っているメディアのテレビとは全く別の表情で、テレビ画面でありながら、まるでインターネットを見ているような不思議な視覚を与えてくれます。時代が断片的に切り取られ、規則正しく構成されたページはグラフィックとしても美しいです。1975-‘76の記録写真でもありながらもファウンドフォトのような、新しい視点や感覚を教えてくれます。
🗣️
小宮山ユカ
1986年生まれ。東京メンズファッションブランド BEDWIN & THE HEARTBERAKERS に5年勤務後、アメリカンカルチャーを体現すべく2年間ニューヨ ークに留学。アメリカでアートブックの世界に魅せられ現在神保町老舗古書店、小宮山書店に勤務。元々メンズブランドにいた事もあってディグってなんでも突き詰めたいタイプ。
小宮山書店
営業時間: 平日 11:00~18:30、日・祝 11:00~17:30 定休日: なし(年末年始を除く)
住所: 東京都千代田区神田神保町1-7
Tel: 03-3291-0495
www.book-komiyama