俳優、デザイナー、スタイリスト…気になるあの人は何を読んでいるのだろう? 24人によるとっておきの1冊を、心に響いた一節を添えて連載でご紹介します。
女優/仁村紗和、俳優/岡山天音 etc.|24人の愛読書「私のいちばん好きな本」vol.4

DAICHI YAMAMOTO
ラッパー
favorite book
アンドリュー・スコット、リンダ・グラットン『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』
人間は長寿化により100年以上生きる時代に突入。共働きも定着し、キャリアアップとともにどちらかがバランスの調整に回る必要も。新たな時代で何に重きを置くべきかについて説く。(池村千秋訳/東洋経済新報社/¥1,800)
この先、どうやって人生を過ごすか
迷っていた気持ちを吹っ飛ばした1冊
仕事をすればするほど報酬が得られるという、フリーランス的なライフスタイルに慣れなくて不安を感じていたところ、ある人のブログでの紹介を見て購入しました。こういうビジネス書や専門書は、新しい発見を教えてくれるのでワクワクするんです。
人間が100年生きる時代になると、“教育〜仕事〜引退”という3ステージだけでは足りなくなる。現代の18〜30歳はこの流れを感じていて、選択肢を狭めないようにさまざまなことに手を出そうとする。と、この本には書いてあって、「フラフラいろいろやってる」と見られがちな自分は救われた気持ちになりました。あと、別の項では“無形の資産”について言及していて、人生に不満がない人に共通するのは、強力に築かれた人間関係だと。確かにコロナ禍で新しい形式でのライヴに挑戦するなど、助け合う機会が増えて、あらためて人と真摯に関わる大切さを体感しています。
俳優
favorite book
香川照之『中国魅録 —「鬼が来た!」撮影日記』
2000年のカンヌ国際映画祭にて審査員特別グランプリを受賞した映画『鬼が来た!』の撮影舞台裏を香川自身が綴る。北京からほど近い山地に滞在した際に降りかかったディープな出来事に立ち向かう。(キネマ旬報社/¥2,000)
私は思念の中でその鼠に頰ずりをした。
常軌を逸した現場から逃げない姿に
心の中を模様替えさせられた
本書の存在を知ったのは事務所に入った当初、社長からすすめられたことがきっかけでした。当時は圧倒的な文章量に挫折してしまったのですが、昨年末にやっとリベンジを果たすことができたんです。
異国の地・中国での目を疑うような撮影環境の下、魂をすり減らしながら「花屋小三郎」という役を生き抜く香川さんの姿に襟を正されます。あまりのストレスで十二指腸潰瘍を患い入院するほど、周りで頻発する奇天烈な出来事。うんざりしながらも必死に食らいついていく、その生命力の“発光”に、これまでの自分の価値観が洗い流され、心の中を模様替えさせられたような気分でした。また、その土地の匂いが染みついた、香川さんが書かれた生々しい文章も大変魅力的です。
先日撮影でご一緒して、直接感想をお伝えできたことが自分にとってとても贅沢な時間でした。
女優
favorite book
マイケル・ポーラン『欲望の植物誌 ー人をあやつる4つの植物』
珍しい模様の花を咲かせたチューリップ。その貴重な遺伝子を巡って人間は…。植物と人間の関係をさかのぼったノンフィクション。(西田佐知子訳/八坂書房/¥2,800)
植物の視点から人間の文化を覗く
実話から釈す両者の関係に釘づけ
『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』(17)という、貴重な球根を巡って主人公とその恋人の運命が変わっていくストーリーの映画を観てからこんな世界があったのかと衝撃を受けたんです。撮影現場でその話をした時にこの本を教えてもらいました。実は人間が植物に操られているという話にびっくり。チューリップが人々を狂わせていったことや、リンゴやジャガイモの話も興味深かったですね。
取り上げた一節ですが、言いたいことはすべてこの言葉に詰まっている気がします。自然の一部である私たちには自然を完全に支配することはできないし、それを失うと自らの生存も不可能になる。植物と人間は限りなく近く、似ている存在なんだと。より魅力的になるように進化を遂げているところなんて人間と似ていると思うんです。
こういう形で植物の歴史や人間の生活史を学べるのは楽しいですね。
女優
favorite book
エーリッヒ・フロム『愛するということ』
ドイツの社会心理学者である著者が1956年に原著『The Art of Loving』を書き下ろし、日本では翻訳家を替えて二度出版された。どうすれば愛する技術を手に入れられるのか理論的に解説。(鈴木晶訳/紀伊國屋書店/¥1,262)
相手を想うことの本当の意味とは?
自身の過去を省みながら、技術を学ぶ
26歳の時に友人にすすめられたのがきっかけです。愛は自然に生まれる感情ではなく、その人の意思であり技術が必要だということ。人を愛するためにはまず自分自身を好きでいること、人を想う信念が必要だという、人間にとって大切なことが具体例を交えながら書かれています。
私は初めて読んだ時に、この本にめったうちにされたんです。自分は好意を欲しているだけで愛する強さを持っていない、なんて未熟な人間なんだって。当時、他人の優しさを目で見えるものではかってしまっていました。「与えてもらった分、お返しをプレゼントするわ」みたいなスタンスで。取り上げた言葉のように、愛するという何も保証のない行動を起こす勇気も信念もなく、ただただ怖かったんだろうと思います。
そんな中で、無償の愛を注いでくれた恋人、友人には感謝しているし、今ならはっきりと愛は技術だと言える自分がいます。
*記事は2020年10月12日時点の情報です。現在は価格等が変更となっている場合があります。
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DAICHI YAMAMOTO
大学在学中にSNSで発表した音源が話題を集め、STUTSらの作品へ客演参加。読書はメモを取りながら。
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岡山天音
1994年生まれ。SSFF & ASIA 2020クリエイターズ支援プロジェクトの短編『卵と彩子』に出演。
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仁村紗和
連続ドラマW『コールドケース3』第3話にゲスト出演。地方の古本屋が好き。ふらっと寄って、購入してしまうとか。
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秋元才加
2020年、ラッパーのPUNPEEと結婚。「最近、本を読む姿の美しさをより実感しています。携帯よりも本!ですね」