社長の座が危うくなる梨央(吉高由里子)。いっぽう、長く行方をくらましていた弟・優の居場所がわかるが、同時に悲しい真実も判明してしまう───。ドラマを愛するライター・釣木文恵とイラストレーター・オカヤイヅミが『最愛』4話を振り返ります。
吉高由里子×松下洸平『最愛』4話。信号が青に変わるまでの数秒だけ、梨央は大輝に甘えた

及川光博のモノローグからはじまった4話
1話は大輝(松下洸平)、2話は梨央(吉高由里子)、3話は加瀬(井浦新)。オープニングのモノローグはこれまで、『最愛』の軸となる3人が1話ごとに担ってきた。そして4話の冒頭に聞こえてきたのはなんと梨央の会社の専務・後藤を演じる及川光博の声! これ、自転車の青年の正体や15年前の真実よりも、当てるのが難しいクイズではないだろうか。
「かけがえのないものと聞いて何を思い浮かべるか。家族、友人、恋人。ではそれらを持たない人間は?」
後藤は、何も持たない自分を受け入れてくれた会社を何より大切にしているらしい。彼は「会社のため」が行きすぎて、はみ出してしまっている人なのだ。
この冒頭だけで、後藤が主人公の苦難のためにだけ登場する都合のいい存在などではなく、彼自身の信念のもとに生きている人であることがわかる。どうやら『最愛』には脇役はいないようだ。
突然の池井戸ドラマのような展開
思いがけないといえば、この後藤が梨央を追い詰める役員会のシーン。
創薬事業に大金を投入しながらも新薬が承認されるまでは利益を生み出せない梨央。後藤は梨央の兄・政信(奥野瑛太)とともに梨央の社長としての資質を疑問視し、追い詰める。
同業他社から恨まれた末の傷害事件、殺人事件への関与の疑い。会社での梨央の立場もここまでか、というところで状況をひっくり返す新薬治験に前向きな患者たちの声が飛び込んできて、梨央は真田ホールディングス社長である母・梓(薬師丸ひろ子)から1年の猶予を与えられる。
まさかこんなところで池井戸潤作品と見紛うばかりの社長と役員の攻防がたっぷりと描かれるとは……。及川は『半沢直樹』や『七つの会議』など池井戸ドラマへの出演もしているが、サスペンスラブストーリーを掲げたドラマの中でこんな展開があるとは思わなかった。
役員たちに向け、新薬開発にかける思いの丈を語る梨央。「私が薬を作りたいと思い始めたのは弟の病気がきっかけです」という声に重なって大輝から逃げる青年(高橋文哉)が映る。
殺された昭(酒向芳)が滞在していたホテルの部屋から見つかった500万円。それを昭に渡していたのは、後藤の依頼で梨央を監視していた自転車の青年だった。警察が総出で彼を追う中で、大輝が本人と鉢合わせる。自慢の脚で追い続ける大輝と、彼からなんとか逃げ切る青年───梨央の弟・優。優は大輝と梨央それぞれに自分が昭を殺す様子を映した動画の存在を明かす。
加瀬、大輝、梨央、優、それぞれの愛
毎回のようにある梨央と加瀬の食事シーン。4話にもあった。3人での食事の場から梓が去った瞬間「急にお腹がすいてきた」という梨央。梓に緊張し、加瀬に心を許しているということだろう。一方加瀬は桑田(佐久間由衣)に梨央と交際しているのではないかと問われた際、ムキになって食い気味に「家族です」と宣言している。さらに自宅で平気で肌着になる梨央に対して、急にラブコメか? という勢いで落ち着かなくなる加瀬の姿も描かれた。加瀬の梨央に対する気持ちがどのような形であれ、彼は徹底的に守るという形で梨央に愛情を注いでいる。
一方、大輝は警察として梨央を追いながらも、「大ちゃん」として梨央を信じたい気持ちもあるようだ。梨央もそんな大輝に対して「本当は全て打ち明けてしまいたい」と思い、けれど「大ちゃん、私やっとらんよ」「渡辺昭さん、殺しとらん」とだけ伝える。「信じるよ。お前やないってこと、俺が証明する」という答えに大輝の胸に飛び込む梨央。抱きしめようとして躊躇する手が切ない。大輝の愛し方は、信じることとそれを自らの手で証明することらしい。この時点ではまだ梨央も大輝も、優の動画の存在を知らない。
信号が青に変わるまでのたった数秒だけ、大輝に甘えた梨央。けれど「(薬ができる)それまでは、何があっても弱音なんか吐かない」と心でつぶやき、信号が青になった瞬間、梨央はふだんの自分に戻る。2話で兄に携帯を奪われた時も、大輝と電話で話して兄に立ち向かうことを決意した梨央。彼女にとって大輝は、いつも自分を奮い立たせる存在だ。
そして「壁にぶつかっても孤独にさいなまれてもやるべきことをやる。大切な人に誇れる自分でいるために」と優からのハガキを見つめ、製薬事業の立て直しに全力を注ぐ梨央。梨央にとって優は、全ての動機だ。薬を作ろうとしたのも、そのために母の元に身を寄せる決意をしたのも、厳しい状況でも創薬事業を諦めないのも。15年前の事件の核心を語らないのも、弟を思ってのことだ。
優が昭の件をなぜ大輝と梨央に明かしたのかはわからない。大輝の「逃げたって何も変わんないぞ」の言葉に心動かされたのか。しかし梨央を守ろうとして、15年前には昭の息子・康介(朝井大智)に、そして現在は昭に手をかけたことだけは事実だ。
『最愛』はどうやら、それぞれの人の愛し方の話のようだ。愛した相手、大切な存在が許されないことをしたとき、人はどうするのだろう。
脚本: 奥寺佐渡子、清水友佳子
演出: 塚原あゆ子、山本剛義、村尾嘉昭
出演: 吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉 他
主題歌: 宇多田ヒカル「君に夢中」
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Illustrator オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。趣味は自炊。
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