アメリカを拠点に活動する画家カリム・B・ハミドの日本初となる個展「アポン ジ エンド オブ プレイ アンド インファンシー」が開催中だ。2023年6月10日(土)まで、銀座の「メグミオギタギャラリー」にて。作家からのコメントと共に展覧会の全容を紹介。
カリム・B・ハミドの日本初個展。具象画によって魂が発するエネルギーを掘り下げていく

カリム・B・ハミドはアメリカ生まれ、イギリスとアメリカで美術を学び、現在はコロラド州に住む画家だ。その作風は、作家自身の言葉で「心霊考古学」と呼ばれている。デフォルメされた女性の身体や、擦れたような色使い、そしてキャンバスをちぎって重ねることで生み出される「違和感」…そこには、目に映る一瞬のその奥をとらえ表現しようとする作家の意志がある。
fa.fn71 (Visitation), 2023, 28.2 x 23.1 cm, mixed media, oil and acrylic paint on wood panel (with frame)
「私は、人、または状況のダイナミズムを深く掘り下げたい。それは、一人一人が魂から発している『サイキック エネルギー』を追求していくことです」とカリム。彼にとって、絵画という手法は後世の人々にも今の我々の文化を伝えるための発掘確認作業なのだ。
特徴的なのは、キャンバスをちぎり、貼り合わせて絵を構成していく制作方法だ。カリム曰く制作とは「創造して破壊すること」
「絵の中にキャンバスの切れ端という物理的な層を積み上げ、制作を進めます。絵を見た人が即座に何かを感じるようなものを作りたいんです。そして、そういう印象が作られる秘密は細部にあるで、ぜひ注意深く作品を観察してみてほしいです」
直感的な表現は、フランシス・ベーコンから受けた影響も大きいという。さらにインスピレーション源としてカリムは、映画監督のアンドレイ・タルコフスキー、作曲家のアルフレート・シュトニケも挙げる。いずれも、人間が感じる「霊的」な瞬間を抽出することに長け、また古典の上に大胆にモダンな手法を重ねていった才能だ。
カリムがキャンバスに落としこむ構図には、古典的絵画のそれも多い。彼の作品は、美術の伝統と革新が重なり合う場でもある。それにはモチーフの選択も無関係ではない。たとえば、しばしば描かれる女性のヌード。これは、ヨーロッパ美術ひいては地球上多くの文化がこれまで女性を対象化することで展開してきたことを指摘するものだ。けれどカリムはそこからさらに一歩進みたいと語る。
「女性性の対象化をただ暴露するのではなく、自分の絵画を見る人には、その背後にある仕組みを理解してほしいと考えています。裸性はほとんど副次的なもので、私の興味はより深い本質にあります」
fa.fn66 (Visitation), 2023, 122 x 122 cm, mixed media, oil and acrylic paint on wood panel
文化の背景に隠れた本質を掘り、表面的な要素と重ねることで表現していくカリム。日本文化にも同様のものを見出しているという。
「古くからの文化的な部分と未来的で奇抜な感覚を非常に注意深く混ぜ合わせているという点で、日本人は唯一無二ではないでしょうか。過去の歴史が持つ厳格な形式が、コンテンポラリーな文化の最もおもしろい部分とぶつかり合う絶妙なポイントがあるのでしょう。そこにある緊張感は、私が絵の中で心がけていることとほぼ同じなんです」
「緊張感」がなければ生命は存在しない、とカリムは続ける。そしてその中でこそ美は生まれるという。
独自の眼差しで日本文化を解釈するカリムが日本で初めて開く個展のタイトルは、『アポン ジ エンド オブ プレイ アンド インファンシー(遊びと子供時代の終わりに)』。2022年にニューヨークで開催された個展と同題だが、これは実はカリムの詩からの引用。絵画作品の多くは、自作の詩からインスピレーションを得ているのだそう。
ユニークで、パンチがあり、すっと引き込まれる作品の秘密は、視覚や言葉の先にある「サイキック」なエネルギーにある。それはまるで原始時代の祭祀のように、過激さと神聖さ、荒々しさと繊細さを併せ持っている。
「メグミオギタギャラリー」では、新作ペインティングの11点が展示中だ。
【カリム・B・ハミド『Upon The Endo of Play and Infancy』】
会期: 開催中〜2023年6月10日(土)
時間: 12:00〜18:00(日・月・祝日は休廊)
場所: メグミオギタギャラリー
Tel: 03-3248-3405