ーー森の中で暮らしていると、耳を這わすよな感覚がある。鳥の声が聞こえてきたり、カサカサっという葉っぱの音に風を感じたり、遠くの雷の音を聞いて、あ、雨が来るかな、と想像したりーー。
思うままに音を鳴らし、向き合ううちに、一つの物語を作ろうと考えた。
耳を這わせていると聴こえてくる、名のない、無数の物語。
『みみはわす』
それが、この物語の題名。
小さな太鼓の音、カセットテープ、古いミニ鍵盤、そして声。
夜の10時、耳を澄ませても聞こえるか聴こえないかくらいの小さな音で録音された、40分間1曲の物語。
風が吹くように耳をかすめていく優しい鍵盤音。その先に聞こえてくるささやき声、心をくすぐるような軽やかな太鼓のリズム。
トゥクトゥク、カサカサ、ポ〜ン、コツ・コツ。
森の光や鳥のさえずりを感じ、自然と調和していたと思ったら、ページをめくるように、突如、まったく別の世界へ連れて行かれる。薄いベールのように何層にも折り重なりあう音は脳の中で溶けあい、時空を超えた旅物語を聴いているよう。それは、ある人には耳元で囁きかける子守唄のようだったり。ある人には、朝陽とともに1日の始まりを告げる始まりの歌のようだったり。聴く場所、聴くたび、聴く人によっていくつもの物語を紡いでいく。

『みみはわす』
OLAibiが5年ぶりに完成させたソロアルバムは、森の中に建てた音楽小屋で録音した40分間1曲の音楽。小さな太鼓の音、カセットテープ、古いミニ鍵盤、そして声が生み出す、無数の名のない物語。日本各地でリリースライブなども開催予定。2,800円。
OLAibi
おらいび/太鼓、ドラム叩き、歌をうたう音楽家。2006年、ファーストソロアルバム『Humming moon drip』を発表。2012年発表のサードアルバム『new rain』では、ハナレグミ、カヒミカリィ、オオルタイチら異種多様なアーティストと競演。2013年に鳥取県大山の麓の森の中に住まいを移し、長年ドラマーとして在籍していたロックバンドOOIOOを脱退。ライブ活動や音楽制作をしながら不定期オープンのアトリエも運営。http://olaibi.com
Text: Chisa Nishinoiri