2020年からの約3年間のコロナ禍を、今振り返るとどんなふうに感じるだろうか。「ソーシャルディスタンス」という言葉が広まり、ロックダウンのあった土地では、外出できる範囲が1kmや2kmという数字で制限された。パンデミックがもたらした様々なものの中で、「距離」への意識がある。グローバル資本主義が世界を覆い、デジタルツールが文化やコミュニケーションを担うようになった時代でも、なお物理的な距離はものを言うのだ。そう、誰もが感じたのではないだろうか。その一方、コロナ禍によってテレワークやオンライン会議が定着。離れた場所にいる者同士をつなぐ技術の力が改めて実感され、この新しいつながり方は広くポジティブに受け入れられた。そして2024年のいま、「遠さ」への意識はすっと薄れている。
同展は、そうした過程を経てきた私たちがどのように現代社会と向き合うのかを問う。おもしろいのは、展示の大部分が2020年より前に制作されたもので構成される点。情報化やテクノロジー、遠隔管理や監視社会といった主題は現代美術でもたびたび扱われてきた。『遠距離現在 Universal / Remote』は、それらにポストパンデミックの視点から向き合う試みでもある。「Pan- の規模で拡大し続ける社会」と「リモート化する個人」。この2つのテーマを、対立概念ではなく合わせ鏡として捉え、現在を生きる人間の姿を浮き彫りにしていく。
「Pan- の規模で拡大し続ける社会」を考察する作家としては、井田大介や徐冰らがピックアップされる。コロナ禍でも論点となった、国家権力や監視システムと個人の自由のバランスとは。展示作品はまた、資本や情報が絶え間なく移動しネットワークを拡大し続けていく世界の問題点を示唆する。